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第220話 秋艶12
「先日のこと、ですよね。控え室の」
覚悟を決め、智也が思いきって切り出すと、城嶋はちょっとホッとした顔になり
「真名瀬くん。君の方からその話題を振ってくれて助かるよ。そう。あの件なんだが……君は、ゲイなのかな?……あ、いや、すまない。君のプライベートに口出しするつもりはないんだがね」
智也は微笑んだ。
「わかってます。相手が祥だから、問題なんですよね」
「いや。問題、という訳ではないな。君のことは社長から聞いているんだ。あの問題児の祥悟くんが、デビュー当時から君には心を許しているようだとね。君は他の後輩たちの面倒見もよくて、とても慕われているそうだね」
智也は手元のグラスをゆっくりと揺らした。
「俺がゲイか?という質問には、お答えしたくないです。ただ、あなたが心配されているような関係ではないですよ、祥……悟くんとは」
「それはつまり、彼と身体の関係はない。ということだね?」
「はい」
「本当かな?出来れば正直に答えてもらいたいんだ。彼をマネージメントする上で知っておきたいことだからね。ああ。もちろん、誰にも口外はしないと約束するよ」
やけに熱っぽい口調で身を乗り出してきた城嶋の態度が、ちょっと意外だった。智也は少し身を引いて
「マネージャーとしては当然のご心配ですよね。でも安心してください。祥悟くんと俺は、そういう関係じゃないです」
キスはする。かなり濃厚なやつを。
一緒に風呂に入って、際どい行為もした。
でも、寝てはいないし、付き合ってもいない。
改めて考えてみると、祥悟と自分の関係はかなり曖昧だ。恋人ではない。セフレでもない。あんなに濃厚な夜を過ごしているのに。
智也はなんだかおかしくなってきて、思わずふふっと笑ってしまった。
「……そうか。じゃあ僕の取り越し苦労だったのかな。いや、控え室での君たちは……なんと言うかすごく親密で……ああいうことに慣れているように感じたんだよ」
「あれは祥悟の悪戯ですよ。時々ああして揶揄ってくるんです。俺の反応を見て、気を紛らわしているんじゃないかと」
「気を紛らわす?」
智也は城嶋に真っ直ぐ身体を向けると
「ああ見えて、祥悟は結構繊細なんです。仕事の直前にふらっと姿を消してしまうのも、俺にああいうことを仕掛けてくるのも」
城嶋はようやく納得したような顔になった。
「なるほど。彼はプライドが高いからね。ナーバスになっている自分を周囲には見せたくないのか」
「ええ。そうだと思います」
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