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第221話 秋艶13
「ありがとう、真名瀬くん。突然押しかけて、立ち入ったことを聞いてしまってすまなかったね」
丁重に頭をさげる城嶋に、智也は慌てて手を振った。
「いえ。あなたの立場はわかってますから。こちらこそ、気を揉ませてしまってすみません」
「正直、君に思いきって聞いてみてよかったよ。ずっと引っかかっていたんだが、祥悟くんに下手に聞いてへそを曲げられるのもね」
城嶋は苦笑すると、ほっと肩の力を抜いて、ワイングラスを持ち上げる。
智也は椅子から立ち上がり
「何かつまみを持ってきますよ。チーズでいいですか?」
「ああ。ありがとう」
智也は軽く頷くと、キッチンへ行き、棚からクラッカーの箱を取り出した。冷蔵庫の中のチーズとプレートを持って、ダイニングに戻る。
「城嶋さん。よかったら、あちらでゆっくり飲みますか?」
智也がリビングの大きなソファーを親指で指し示すと、城嶋はちらっとそちらを見てから視線を戻し
「あ、いや。いいのかい?今日は早めに寝るつもりなんだろう?」
智也は笑いながら首を竦めた。
「流石にちょっと時間早すぎるんで、寝る前の時間暇潰しをどうするか悩んでいたところなんです」
「……そうか。じゃあ、折角だからお言葉に甘えよう」
「君は上にお兄さんがいるんだったね?」
チーズをアテにワインを舐めながら、城嶋が寛いだ表情で話しかけてきた。
用事を済ませた城嶋を時間潰しの相手に誘ったのは、どうせまた明日の祥悟との仕事を気にして、落ち着かない夜を過ごすことになると思ったからだ。城嶋と世間話でもしながら、程よく酔って余計なことを考えずに寝てしまう方が楽な気がした。
「ああ、はい。年の離れた兄が2人います」
「羨ましいな。私は一人っ子だったからね。子どもの頃は兄が欲しくて母によくねだったものだ」
「ふふ。祥も同じことを俺に言いましたよ。兄貴が欲しかったって。だから俺が兄代わりになってやるって言ったんです。彼がまだ事務所に来たばかりの頃に」
城嶋は首を傾げてこちらをじっと見ると
「そうか。兄貴代わりか。だから君にだけは心を許して甘えているのかな」
「たぶん、そうでしょうね」
「ご実家はたしか伝統芸能の家元さんだったね。君は家には戻らないのかな?」
智也は彼から目を逸らし、首を竦めた。
「兄2人が継いでますからね。俺は向いてないんです、ああいう堅苦しいのは」
「それで家を出て気楽な一人暮らしか。恋人はいるのかな?」
城嶋の唐突な質問に、智也は苦笑いしながら部屋の中を見回して
「ご覧の通りですよ。一時期、高校生の従兄弟を居候させてましたが、それ以外はずっと独りです。性分的にその方が気が楽なので。城嶋さんこそ、恋人はいらっしゃらないんですか?」
話の流れの気安さで軽く聞いただけなのに、城嶋はワイングラスをテーブルに置いて、急に黙り込んでしまった。
……え……?
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