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第222話 秋艶14
これは聞いてはいけない質問だったかと、智也が焦るくらい長い沈黙の後、城嶋は手元のグラスを揺らしながら静かに口を開いた。
「将来を約束した相手がいたんだがね、半年ほど前に、同棲を解消したんだ」
「あ……すみません。余計なことを聞いてしまって」
「いや。いいんだ。それより私はね、君にちょっと聞いてみたいことがあるんだよ」
「え?俺に?ああ……ええと…何をです?」
城嶋は顔をあげて、真っ直ぐにこちらを見た。
その眼鏡の奥の眼差しが、思いのほか熱っぽい気がして、智也は戸惑い微妙に目を逸らした。
なんだろう。さっきから、どうにも噛み合わないような気分に襲われている。
いや、さっきからというより、今日、城嶋が約束もなしに一人ここを訪ねてきてからずっとだ。
「うん。君はさっき、祥悟くんとは関係がない、寝てはいないと言ったね」
「え……ええ」
「だが、君はゲイだね?」
やけにハッキリと城嶋が断言した。質問している風を装ってはいるが、これは質問ではなく念押しだ。
「それは……」
「言いたくない、か。さっきもそうだが、君ははっきり否定しないんだな」
城嶋の口調が、何故か急に馴れ馴れしくなった…気がする。
この雰囲気を、どう受け止めたらいいのだろう。
やっぱり変だ。妙な違和感が強くなっていく。
不意に、城嶋がソファーから立ち上がった。
ハッとして思わず見上げた智也の目に、テーブルを回ってゆっくりと近づいてくる城嶋の姿が映る。
……え。ちょっと、
城嶋の表情は穏やかだ。眼鏡の奥の瞳もにこやかで物腰も柔らかい。
それなのに、近づいてくる彼に酷い威圧感を覚えて、智也は焦って腰を浮かしかけた。
「隣、いいかな?」
「あ。……や、ええと」
返事を待たずに、城嶋の手が伸びてきて、肩を押されながらすぐ隣に腰をおろされてしまった。自然と、智也は浮かしかけた腰をそのままソファーに沈める形になる。
突然、パーソナルスペースに押し入ってこられた。
近い。近すぎる。
横に並んだ彼の太腿の体温を、布越しに感じてしまうほど、近い
「や、あの、城嶋さ」
「君に初めて会った時にね」
城嶋が言葉を遮る。じりっと更に近づいた彼の脚が、ピッタリとこちらの太腿に触れてきた。
……ダメだ。これ、まずい。
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