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第226話 秋艶18

わなわなと唇を震わせている城嶋を、智也は呆けたように見ていた。 今、祥悟はなんて言ったんだろう。 なんだか凄いことを言われた気がする。 頭の中がパンっと弾けて、上手く考えられない。 祥悟に腕を掴まれ、抱き寄せられている。 腕を組んでいる彼は、自分より背が低くて華奢なのに、大きなもので包まれて守られているような不思議な安心感があった。 「まだなんか言いたいこと、あるのかよ?」 祥悟のここまでキツい口調は、初めて聞いたかもしれない。 城嶋は顔を歪め、絞め殺しそうな表情で自分と祥悟を睨みつけると、そそくさと玄関に行き靴を履いてドアを開けた。一歩外に踏み出してくるっとこちらを振り返り、祥悟を再び睨みつける。 口を開き、何か言おうとしたが 「おやすみ、マネージャー。明日は俺、智也と一緒に現場入るから、よろしくね」 口調を和らげてはいるが嘲るような声音の祥悟の言葉に遮られ、結局ひと言も発せずに足音荒く出て行った。 ドアがガチャっと閉まる音がやけに大きく響く。 玄関内に沈黙が流れた。 祥悟にガッチリと腕を掴まれたまま、智也は金縛りに遭っていた。 ……どうしよう……。祥……怒ってる…よね。 すぐ斜め下にある祥悟の顔が、ちょっと怖くて目が向けられない。 不意に、はぁぁぁ…っと祥悟が荒い息を吐き出した。 智也はぎゅっと目を瞑ってから覚悟を決めて、恐る恐る彼に視線を向けてみる。 上目遣いに自分を睨みあげている祥悟と目が合った。 怖い。噛みつかれそうだ。 「祥、ごめ…」 「キスぐらいされちまった?あいつに」 「っ。いや、されてない」 「ふーん。じゃ、どっか触られた?」 智也はそっと目を逸らした。 「や、あー……手と……太腿、かな」 「そっか。んじゃ、間に合ったんだ」 祥悟がふんっと鼻を鳴らす。 「どうして……わかったの?」 「んなもんあからさまだったし?あいつがおまえ狙いなのはさ」 「いや。そうじゃなくて、今夜、彼がここに来てるって、どうして…」 祥悟は小首を傾げた。 さっきより表情がだいぶ和らいでいる。 「ま。いろいろあんの。俺の情報網」 ニヤリと笑う祥悟に、智也はほっとして肩の力を抜いた。……と同時に安堵しすぎて気が抜けて、足元がふらついてしまった。 「じゃ、帰るわ俺。あいつが戻ってきても絶対に鍵開けんなよ」 祥悟はそう言って手を離し、靴を履こうとしている。智也は慌てて彼の腕を掴んだ。 「待って、祥。帰っちゃうのかい?」 「んー。だって明日の朝早いし?」 「と、泊まっていってくれ」 思わず、言葉が零れ落ちた。自分で自分の言ったことにびっくりして、智也がはっと口を噤むと、祥悟は振り返って探るような目でこちらを見つめてきて 「わかった。じゃ、中入ろうぜ」 あっさりと承知して、今度は奥のリビングへスタスタと歩いて行った。

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