228 / 349
第228話 秋艶20
「何された?あいつに。ほんとのこと、言えって」
祥悟の目が近い。吸い込まれそうだ。
「何も」
「何もねえのに、そんな落ち込んだりするかよ。言えって。上書きしてやるから」
「え……上書き?」
訳がわからず目を見開くと、間近に迫った祥悟の目がムッと細められた。
「そ。上書き。あいつの跡、消しちまうの」
「祥?ね、何そんな、怒って……」
「おまえって誰にでも優しすぎ。自分のこと自覚してねえのかよ。もっと警戒しろよな」
祥悟の吐息が唇にかかる。
どうしよう。中腰のこの体勢から動けない。
目が、逸らせない。
「キス……」
「されたのかよ?あいつに」
……違うよ、祥、これじゃキスしそうな距離だって言おうと……
「ちっ。あの変態男。ムカつく」
祥悟が舌打ちすると、微かに何か呟いてから、ぐいっと一気に顔を寄せてきた。
「っ」
唇が一瞬触れた。息を飲んで怯んだ智也の首の後ろに、祥悟の両手が伸びてきて絡みつく。その手でぐいっと引き寄せられて、唇が強く重なった。
「ん……っ」
乱暴な口づけに互いの歯がカチッと音をたてて当たる。近すぎてボヤけた彼の瞳が痛そうに歪んだ。慌ててほどこうとした重なりを、祥悟の舌が割ってくる。抵抗は許さないとばかりに、首の後ろに回した手でぶら下がってホールドされた。
割られた唇から彼の舌が忍び込んでくる。その甘い誘惑に抗えなくて、舌を絡め合わせる。
祥悟が目蓋を静かに閉じた。
蠢く互いの舌が熱く深く混じり合う。
「ん……ふ、ぅん、……ん」
祥悟はおそらくつま先立ちで、自分は中腰の体勢だ。不安定さがもどかしくなってきて、智也は彼の腰を掴んで抱き上げると、洗面台の上に座らせた。その拍子に、洗面台の上に置いてあった物がバラバラと音をたてて床に落ちる。驚いた彼の目蓋が一瞬大きく開いたが、すぐに満足そうに細くなった。
「続きを、しても、いいかい?」
舌をほどき唇は合わせたままで吐息混じりに問うと、祥悟はふふっと息だけで笑って
「いちいち聞くなって」
囁く声音にもとろりと甘い蜜を滴らせている。
祥悟が言った上書きされるようなことは、城嶋からはされていない。でも今は誤解を解くより、彼の蜜を心ゆくまで堪能したかった。
洗面台に乗り上げた彼が、腕を伸ばしてきて首の後ろを再びホールドする。その動きに誘われるように、智也は彼の唇にむしゃぶりついた。
ともだちにシェアしよう!