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第228話 秋艶20

「何された?あいつに。ほんとのこと、言えって」 祥悟の目が近い。吸い込まれそうだ。 「何も」 「何もねえのに、そんな落ち込んだりするかよ。言えって。上書きしてやるから」 「え……上書き?」 訳がわからず目を見開くと、間近に迫った祥悟の目がムッと細められた。 「そ。上書き。あいつの跡、消しちまうの」 「祥?ね、何そんな、怒って……」 「おまえって誰にでも優しすぎ。自分のこと自覚してねえのかよ。もっと警戒しろよな」 祥悟の吐息が唇にかかる。 どうしよう。中腰のこの体勢から動けない。 目が、逸らせない。 「キス……」 「されたのかよ?あいつに」 ……違うよ、祥、これじゃキスしそうな距離だって言おうと…… 「ちっ。あの変態男。ムカつく」 祥悟が舌打ちすると、微かに何か呟いてから、ぐいっと一気に顔を寄せてきた。 「っ」 唇が一瞬触れた。息を飲んで怯んだ智也の首の後ろに、祥悟の両手が伸びてきて絡みつく。その手でぐいっと引き寄せられて、唇が強く重なった。 「ん……っ」 乱暴な口づけに互いの歯がカチッと音をたてて当たる。近すぎてボヤけた彼の瞳が痛そうに歪んだ。慌ててほどこうとした重なりを、祥悟の舌が割ってくる。抵抗は許さないとばかりに、首の後ろに回した手でぶら下がってホールドされた。 割られた唇から彼の舌が忍び込んでくる。その甘い誘惑に抗えなくて、舌を絡め合わせる。 祥悟が目蓋を静かに閉じた。 蠢く互いの舌が熱く深く混じり合う。 「ん……ふ、ぅん、……ん」 祥悟はおそらくつま先立ちで、自分は中腰の体勢だ。不安定さがもどかしくなってきて、智也は彼の腰を掴んで抱き上げると、洗面台の上に座らせた。その拍子に、洗面台の上に置いてあった物がバラバラと音をたてて床に落ちる。驚いた彼の目蓋が一瞬大きく開いたが、すぐに満足そうに細くなった。 「続きを、しても、いいかい?」 舌をほどき唇は合わせたままで吐息混じりに問うと、祥悟はふふっと息だけで笑って 「いちいち聞くなって」 囁く声音にもとろりと甘い蜜を滴らせている。 祥悟が言った上書きされるようなことは、城嶋からはされていない。でも今は誤解を解くより、彼の蜜を心ゆくまで堪能したかった。 洗面台に乗り上げた彼が、腕を伸ばしてきて首の後ろを再びホールドする。その動きに誘われるように、智也は彼の唇にむしゃぶりついた。

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