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第230話 挿話『ネコの気持ち(祥悟視点)』2
「ねえ。そんなに抱かれてみたいなら、あたしでどう?祥悟くんならとびきり優しく抱いてあげるわよ」
祥悟はちろっと横目でママを睨みつけて
「あんたネコじゃん。抱く方無理だろ?」
「祥悟くんが相手なら頑張っちゃうけど?優しく教えたげるから、その後あたしを抱いてくれれば」
眉を寄せ、物腰は柔らかいがガタイのいいママをじーっと見つめ、祥悟は首を竦めた。
「遠慮しとく。あんた俺のタイプじゃねーし」
「ま。ハッキリ言ってくれちゃって」
プリプリしながらカクテルを作り始めたママにちろっと舌を出すと、祥悟はスツールを回して店の中を眺め始めた。
ここは盛り場じゃないから、店内の客にそれっぽい手合いはいそうにない。
……やっぱそういう系の店、行かないとダメか。
諦めてカウンターに向き直ろうとした時、ドアベルがカランカランと軽快に来客を告げた。
開いたドアから姿を見せた男の顔を見て、祥悟は慌てて背を向けると帽子を深く被り直した。
……あいつ……たしか……。
外していたサングラスもかけ直す。
見覚えのある男だった。というか、数日前に事務所で会ったのだ。社長室に呼ばれて。
……名前……なんつったっけ?
祥悟はサングラス越しに、店の奥の席に向かった男をちらちら気にしながら、ママに小声で聞いてみた。
「な。今、入ってきた男ってさ、常連?」
「え?ううん。常連さんではないわね。最近ちょくちょく来てくれてるけど」
「ふーん……。結構いい男じゃん」
祥悟の言葉に、ママはしげしげと奥の客を見つめて
「あら。祥悟くんのタイプ?」
「まあね」
途端にママは眉をひそめ、カウンターから身を乗り出してきた。
「ね。ナンパする気なら、あれはやめといた方がいいわ」
「なに。嫉妬?」
「んもぉ~違うわよ。ちょっとね、いろいろ嫌な噂、耳にしたのよ」
祥悟は片眉をあげて、もう一度奥の男をちらっと見た。
「噂って?」
ママは大きな身体をいっそう乗り出して、テーブルを片付けるフリをしながら、耳打ちしてきた。
「すごいドSだってそっち方面では有名な男よ。しかもちょっときな臭い噂もあるわ」
「ふーん……。どんな?」
「大きい声じゃ言えないけどね。薬を使うのよ」
「麻薬ってこと?」
「そっちはどうか知らないけどね。睡眠導入剤」
祥悟は目を見開いた。
「……犯罪じゃん」
「そ。だからやめといた方がいいわ。ちょっとまずいわよ、ほんとに」
「それってどこ情報?」
ママは耳に顔を寄せてきてそっと囁いた。
祥悟は頷くと
「さんきゅ。俺そろそろ帰るわ」
「それがいいわね」
祥悟は代金をカウンターに置くと、なるべく奥の席から顔を背けて、そっと店を後にした。
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