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第236話 秋艶25※

洗面台に座ったままの祥悟に、改めてきちんと向き直ってキスを送る。そっと何度も啄みながら、心を込めて口づけた。 愛おしくて堪らない。 心が震えて仕方ない。 そっと触れてはすぐに離れ、また優しく唇を合わせる。 目を閉じてキスに応えようとしていた祥悟は、何度目かで目を見開き、不思議そうに首を傾げた。その瞳に目だけで微笑みかけて、今度は口づけをぐっと深くする。 祥悟はちょっと驚いたようにぱちぱちと瞬きしてから、目を閉じて促すように舌をちろっと出してきた。 焦らしているつもりはないが、大切に育みたい夜なのだ。祥悟がくれた素直な信頼に、出来るだけ優しく応えたい。 濡れた熱い粘膜が絡みあって、しっとりと蕩け合う。 舌をちゅっと吸い上げ更に口づけを深くすると、祥悟の鼻から甘えた吐息が漏れた。 くちゅっくちゅっと微かな水音をたてながら、まずは唇からひとつになる。 「ん……ん……」 祥悟の肩に手を伸ばし、脱ぎかけのシャツの襟を掴む。そっと肩から引き下ろしていくと、彼の手が脱がせやすいように動いてくれた。 てろんとした柔らかい上質のシャツは、腕から抜けるとそのまま床に滑り落ちていく。智也はそれを目で追って、口づけをほどき、剥き出しになった白い肩にキスをした。 「なんか、おまえ、いつもと違うし」 「そうかな?」 今夜はきっと、特別な夜になる。 祥悟の雄としての初体験は、智也が干渉出来ない領域だ。でも自分は彼の初めての男になれるのだ。 嫌な体験にはさせたくない。 終わった後で、自分を選んで良かったと思ってもらいたい。自分以上に祥悟に、満ち足りた気持ちになってもらいたいのだ。 こんな風に人を愛おしく思える自分は、きっとすごく幸せ者だ。 祥悟の顔の両脇に手をついて、じっと目を見つめながら唇を寄せた。吐息が重なる。 「君が好きだよ…」と、甘く囁きたい気持ちをぐっと飲み込むと、心の中でだけ囁いた。 「いつもと変わらないよ、俺は」 たぶん、他の誰よりも、自分は祥悟に近い場所にいる。でも決して越えてはならない壁があるのだ。 そのことを忘れてはいけない。 下からすくい上げるようにして、今度は最初から深く踏み入った。迎える祥悟の唇も、薄く開いて吸い付いてくる。 「ん……ふ……んぅ……っふ」 性的な意味合いを込めた唇の交わりは、中途半端に昂ったままくすぶっていた互いの身体の熱を、一気に煽っていく。 祥悟の手が伸びてきて背中に回る。 ぎゅっと抱き締められて、悦びに心が震えた。 今だけは、彼をこの鏡の世界に封じ込めて、自分は彼にとって唯1人だけの雄になるのだ。 台に膝を乗り上げて、奪い合うような喰らい尽くすような激しいキスに溺れていく。鏡に押し付けられて頭を動かせない祥悟は、荒く喘ぎながら身を捩った。 「んっ……はぁ……」 解いた唇を滑らかな頬へと滑らせ、柔らかい耳たぶを口に含む。キスを逸らされた祥悟の口から、感じ入ったような重甘い吐息が漏れた。耳たぶを優しく甘噛みした後、そのまま首筋へと滑らせていく。 擽ったいのだろう。祥悟の身体がぴくんっと震えて首を竦めた。皮膚の薄いそこに強く口付けたい情熱を必死にセーブする。 明日の朝は撮影がある。しみひとつない彼の美しい肌に、情欲の名残りを刻んではいけない。

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