242 / 349

第242話 秋艶31※

「とりあえずさ、服脱げよ」 祥悟はこちらの身体を押し退けて、とんっと床に降りると、シャツをグイグイ引っ張る。 「え?脱ぐ……?」 「おまえ、手、ベタベタ。俺もあちこちベタつくし、ざっとシャワー浴びてさっさと寝ようぜ」 「あ……ああ」 祥悟は向かい合わせに立つと、智也のシャツのボタンを上から外し始めた。 確かに、右手がオイル塗れだ。その手で彼を抱き締めて手首を押さえたせいで、祥悟もあちこちオイル塗れになっている。 シャツのボタンを外し終えると、祥悟の手がスラックスのウエストに伸びた。智也はすかさずその手を押さえると 「自分で脱ぐよ。先に浴びてて」 「んー」 祥悟はくるっと背を向け、さっさと浴室に行ってしまった。 智也はガックリと肩を落とし、深いため息をつく。 ……俺って押しが弱いのかな……。そうか……。祥は少し強引な方がいいのか。 確かに、さっきのキスは自分も腰にきた。 緊張し過ぎて萎えてしまったアソコが、実は少し反応している。 智也はスラックスのファスナーをおろして、また中途半端に盛り上がった己の股間をせつなく見つめた。 ……こら。いまさら勃つなって。今夜はお預けなんだぞ。 休みの日にゆっくり抱いてよ。 祥悟はそう言った。 自分とこういうことをするのが、嫌ではないということなのだ。 不意にじわじわと嬉しさが込み上げてくる。 ……よし。後ろのほぐし方、もうちょっと研究しておかないとな。 智也はニヤけそうになる頬をきゅっと引き締めて、服を脱ぎ捨てると浴室に向かった。 「俺、奥な」 シャワーを終えると、祥悟は貸してやった大きめのシャツだけ着て、さっさと寝室に行き、ベッドに腰をおろす。シャツの裾からスラリと伸びた脚が、目のやり場に困るくらい綺麗だ。 俺はソファーで……そう言いかけて、やめた。ごちゃごちゃ面倒臭いと、また祥悟に怒られそうだ。 智也が頷くと、祥悟は奥に詰めてそのまま横になろうとした。 「あ、待って。髪がまだ濡れてるから」 智也はタオルを手にベッドにあがり、祥悟の髪の毛を優しくタオルで包んだ。祥悟は目を閉じて、グルーミングされている猫のように大人しくしている。 傷めないようにとあまり擦らずに、タオルで髪の束を挟んで水気を吸い取っていった。 「おまえの手、気持ちいい」 「そう?痛くないかい?」 「んー。俺の今のヘアスタイリストさ、雑なんだよね、髪いじる時。髪ってさ、ほんとはあんま触られたくねーの。特に気に入らねえヤツには」 「ふふ。手厳しいね。彼、腕とセンスはいいって評判じゃないか」 「まあね。おまえの手でいじられてると、なんか眠くなってくるし」 智也はタオルで後ろ髪の束を包んでパンパンと水気を取ると 「さ。そろそろいいかな。朝起きたらまたシャワー浴びるよね」 「ん。ありがと」 祥悟は目を開けて微笑んだ。 眠いのだろう。目が少しトロンとしている。そのあどけない素の表情が、可愛くてきゅんきゅんした。 横になり、目を閉じた祥悟の隣に、自分もそっと横たわる。 いつの間に、こんなに距離が近くなっていたのだろう。他人に触られるのが好きじゃないという髪の毛を、気を許して触れさせてくれる。 おまえの手、気持ちいいと、言ってくれる。 たとえ恋愛感情とは程遠くても、他には許さない行為を、信頼してさせてくれるのは嬉しかった。 照明を絞ると、祥悟はもう気持ちよさそうに寝息をたて始めた。智也はその横顔をそっと見つめてから、満ち足りた気持ちで目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!