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第242話 秋艶31※
「とりあえずさ、服脱げよ」
祥悟はこちらの身体を押し退けて、とんっと床に降りると、シャツをグイグイ引っ張る。
「え?脱ぐ……?」
「おまえ、手、ベタベタ。俺もあちこちベタつくし、ざっとシャワー浴びてさっさと寝ようぜ」
「あ……ああ」
祥悟は向かい合わせに立つと、智也のシャツのボタンを上から外し始めた。
確かに、右手がオイル塗れだ。その手で彼を抱き締めて手首を押さえたせいで、祥悟もあちこちオイル塗れになっている。
シャツのボタンを外し終えると、祥悟の手がスラックスのウエストに伸びた。智也はすかさずその手を押さえると
「自分で脱ぐよ。先に浴びてて」
「んー」
祥悟はくるっと背を向け、さっさと浴室に行ってしまった。
智也はガックリと肩を落とし、深いため息をつく。
……俺って押しが弱いのかな……。そうか……。祥は少し強引な方がいいのか。
確かに、さっきのキスは自分も腰にきた。
緊張し過ぎて萎えてしまったアソコが、実は少し反応している。
智也はスラックスのファスナーをおろして、また中途半端に盛り上がった己の股間をせつなく見つめた。
……こら。いまさら勃つなって。今夜はお預けなんだぞ。
休みの日にゆっくり抱いてよ。
祥悟はそう言った。
自分とこういうことをするのが、嫌ではないということなのだ。
不意にじわじわと嬉しさが込み上げてくる。
……よし。後ろのほぐし方、もうちょっと研究しておかないとな。
智也はニヤけそうになる頬をきゅっと引き締めて、服を脱ぎ捨てると浴室に向かった。
「俺、奥な」
シャワーを終えると、祥悟は貸してやった大きめのシャツだけ着て、さっさと寝室に行き、ベッドに腰をおろす。シャツの裾からスラリと伸びた脚が、目のやり場に困るくらい綺麗だ。
俺はソファーで……そう言いかけて、やめた。ごちゃごちゃ面倒臭いと、また祥悟に怒られそうだ。
智也が頷くと、祥悟は奥に詰めてそのまま横になろうとした。
「あ、待って。髪がまだ濡れてるから」
智也はタオルを手にベッドにあがり、祥悟の髪の毛を優しくタオルで包んだ。祥悟は目を閉じて、グルーミングされている猫のように大人しくしている。
傷めないようにとあまり擦らずに、タオルで髪の束を挟んで水気を吸い取っていった。
「おまえの手、気持ちいい」
「そう?痛くないかい?」
「んー。俺の今のヘアスタイリストさ、雑なんだよね、髪いじる時。髪ってさ、ほんとはあんま触られたくねーの。特に気に入らねえヤツには」
「ふふ。手厳しいね。彼、腕とセンスはいいって評判じゃないか」
「まあね。おまえの手でいじられてると、なんか眠くなってくるし」
智也はタオルで後ろ髪の束を包んでパンパンと水気を取ると
「さ。そろそろいいかな。朝起きたらまたシャワー浴びるよね」
「ん。ありがと」
祥悟は目を開けて微笑んだ。
眠いのだろう。目が少しトロンとしている。そのあどけない素の表情が、可愛くてきゅんきゅんした。
横になり、目を閉じた祥悟の隣に、自分もそっと横たわる。
いつの間に、こんなに距離が近くなっていたのだろう。他人に触られるのが好きじゃないという髪の毛を、気を許して触れさせてくれる。
おまえの手、気持ちいいと、言ってくれる。
たとえ恋愛感情とは程遠くても、他には許さない行為を、信頼してさせてくれるのは嬉しかった。
照明を絞ると、祥悟はもう気持ちよさそうに寝息をたて始めた。智也はその横顔をそっと見つめてから、満ち足りた気持ちで目を閉じた。
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