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第246話 秋艶35

「はは。随分と嫌われてしまったね」 城嶋は苦笑しながら、それでも出ていく様子をまったく見せず、ドアを後ろ手に閉めてガチャリと内錠をかけた。 ……っ、こいつ……っ 「あんたが出て行かないなら、俺が出て行く。そこを、どけろ」 「そんなにいきり立つなよ。僕はちょっと話がしたいだけだ。君と橘くんのスキャンダラスな関係について、ね」 城嶋の態度がガラリと変わった。穏やかな紳士面を脱ぎ捨て、妙な凄みを醸し出している。 「どういう意味だ。俺と祥悟にそんなおかしな関係はない。あんたの方こそ…」 「女性向けの商材で共演しているモデル2人が、毎夜ベッドを共にしている同性愛者というのは……しかも片方が今人気絶頂のトップモデルというのは、実にまずいイメージダウンだと思わないかね?」 「…っ」 智也は目を細めて黙り込んだ。城嶋はますます嫌な笑いを口元に浮かべて 「橘くんは、たしか前にも1度、女性関係でかなり大きなトラブルを起こしていたね。これでまた、これだけ大掛かりな仕事の最中に男相手のトラブル発覚というのは……どうなのかな?スポンサーとしては、そんな2人を企業イメージとして使いたくはないだろうね」 近づいてくる城嶋から、じりじりと後ずさる。 「それは完全に、あんたのでっち上げだ。俺と彼の間にそんな関係は」 「これ、分かるかな?」 智也の言葉を遮り、城嶋がポケットから取り出したのはボイスレコーダーだった。 「……?それが、どうした」 「君と橘くんのソファーでの睦言、聴いてみるかい?」 「…っ」 智也がはっと目を見開くと、城嶋はしたり顔になり 「なかなか……情熱的だったね。君たちのキスは」 ……まさか……盗聴器か?昨夜、あの時にっ 智也はぎゅっと顔を歪めると、城嶋に駆け寄り手からボイスレコーダーを奪い取ろうとした。 が、すかさずかわされて、逆に手首を掴まれる。 城嶋はくく…っと喉を震わせて笑うと、ボイスレコーダーをポケットに仕舞い、掴んだ手首をぐいっと引き寄せる。 「ねえ、智也。音源はここにあるだけじゃない。ちょっとは利口になりたまえよ。君が折れてくれるだけで、橘くんの立場は守れるのだよ。もちろん、君自身もね」 「そんなもの、公にすれば、あんたの立場だって危うくなる」 「ああ。僕の心配をしてくれるなんて、君は本当に優しい人だね、智也。でもね、僕にはいろいろと使える手があるから、君に気にしてもらう必要はないんだよ」 「離せっ」 手首を振りほどこうとすると、城嶋のもう一方の手が腰に回された。思いがけない強さで抱き寄せられ、すぐ目の前に迫る城嶋から、智也は必死で顔を背けた。

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