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第252話 秋艶41
メニューはほとんど、城嶋が勝手に決めた。
こちらがあからさまに嫌がる態度をとっても、城嶋のおめでたい脳みそは全てポジティブに受け止めるらしい。
ルームサービスを頼み終えると、智也が座っているソファーの方に近づいてきた。
……こっちに、来るな。
「ようやく落ち着いて2人きりになれたね」
微笑みながら、端っこにいる智也のすぐ横に腰をおろしてくる。思わず腰を浮かすと、腕を掴まれた。
「逃げないで。まずはお互いをよく知るために、ゆっくり話をしよう」
「話なら、こんなくっついてなくても出来る。あんた耳が遠いのか?」
掴まれた腕を引っ張ると、城嶋はもう一方の手で手首を掴み
「君は付き合う相手を選んだ方がいいね。橘くんの影響かな?彼はチンピラ並に口が悪い」
手首をがっちり掴んだまま、腕をさわさわと撫でられて、全身に鳥肌がたつ。城嶋の声音はさっきより更に甘さを増していた。
「さあ、座って。隣が嫌なら、僕の膝の上でも構わないんだよ。おいで、智也」
智也は目をむいて、城嶋を見下ろした。
……こいつ……正気か?
そのままぐいっと膝の上に引き寄せられそうになり、智也は浮かしかけた腰を元いた位置に慌てて落とした。
何が悲しくてこんな歳になって、年上の男にお膝抱っこなんかされなくてはいけないのだ。
智也は出来る限り端に寄ってみせたが、城嶋は更にぴったりと身体を寄せてくる。服は着ているが、密着した太腿から生暖かい体温が伝わって来て……げんなりした。いや寒気もする。
あと何時間ぐらい、こんな拷問に耐えなければならないのだろう。
夕食も話もすっ飛ばして、さっさと寝て終わりにしてしまいたい。
「城嶋さん、話って」
「しょうって呼んでくれないのかい?」
……呼ぶか、タコ。
城嶋の手が伸びてきて、太腿をさわさわと撫で回す。鳥肌だけじゃない、やっぱり蕁麻疹だ。
智也は膝の上でやわやわと蠢くその手をガシッと掴んで引き剥がした。
「触るな」
「スキンシップだよ。お互いをよく知るためには、まずは触れ合って距離を縮めてみるといいそうだよ。君の身体は何度か現場で見ていたけど、綺麗な筋肉の付き方だね」
……仕事中ずっとそういう目で俺を見てたのか、あんた。……最悪だろ。
「話をするんだろ?少し離れろ。ルームサービスが来る」
「彼らはちゃんと見て見ぬふりをしてくれるからね。気にしなくていい」
話がまったく噛み合わない。
まるで宇宙人と会話しているみたいだ。
智也が黙り込むと、城嶋は掴まれた手をひねって外し、今度はこちらの胸に手を伸ばしてきた。
手のひらをぴたっと当てて、上目遣いに顔を覗き込んでくる。
「君の身体、僕は好きだな。特にこの辺りの筋肉がすごく綺麗だ。ちょっと前に雑誌の仕事で上半身裸のがあっただろう?あれはすごくよかったな」
眼鏡の奥の目が熱を帯びている。
同じことを祥悟に言われた時は、嬉しくて舞い上がったが、相手が城嶋だと萎える一方だ。
というか、本当にこの男、なんだかおかしくないか?
今まで何度か、抱かせろと口説かれた経験があるが、城嶋のこの迫り方はどうにも妙だ。勝手が違いすぎて、調子が狂う。
ねっとりじわじわと迫ってくる感じが、どうにも気色悪くて堪らない。
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