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第255話 挿話「猫の秘め事」※2

祥悟は下着ごとハーフパンツを下にずらすと、両脚をしどけなく開いた。 目はぎゅっと瞑ったままで、ペニスに絡みつく自分の指を、智也のそれでイメージしてみる。 最近、自慰は滅多にしないのだ。 溜まってくれば、遊びと割り切れる女をテキトーに誘ってホテルへ行く。 「…は……ぁ……は……」 根元から先っぽへ、ゆっくりじわじわ手を動かした。 智也の長い指が自分のそれに絡みつき、絶妙な力加減で甘い刺激を塗り込んでいく。 すればするほど欲しくなる口づけ。 急にほどかれて焦れると、その唇が首筋から鎖骨へと滑り落ちていった。 仕事柄、キスマークは厳禁だ。だから彼の愛撫は焦れったいほどソフトタッチだった。 さわさわと撫でるだけの唇に、もっと強く吸いつかれたい。点々と肌に灯る熱が、下腹の昂りを煽っていく。やがて唇が胸の飾りに触れた。 熱い舌を絡めるようにしながら、小さな尖りにじゅ…っと吸い付いてくる。 「んあ……っ」 祥悟は思わず仰け反り、膝をたてた足の先でシーツを蹴った。妄想しながらゆるゆると動かしていた手の中で、ペニスが震えている。既に完全に張り詰めて、先走りの蜜が指を濡らした。 ……ああ……やべえ……きもちいっ 指の動きを一気に速くする。ぬちぬちとやらしい水音を奏でながら、甘い痺れを次々に生み出していく。頭の中が白くもやって、もう出すこと以外は考えられない。 祥悟は指で作った輪っかで、カリの下辺りを強く擦った。 そろそろ限界だ、イく。 内股がきゅっと引き攣れた。 奥から込み上げてくる熱い奔流に、身を委ねる。 「……っっく」 ぎゅんっと見えない何かに引っ張られるようにして、のぼりつめていた。手の中で一瞬膨張しきったそれが、一気に弾け散る。 思わず、呻き声が出ていた。 激しい快感に、身体が浮いたような錯覚を起こす。 「んっは…は、はぁ……ぁ」 意識の全てを持っていかれそうな快感は、一瞬だけだ。 唐突に引き戻された意識が、まず最初に結んだ映像は、智也の優しい笑顔。 ……っ。なんでだよ。智也おかずにオナニーとか、俺いよいよ終わってんだろ。 すかさず、心の中で突っ込んだ。 ゲイじゃないくせに、男に愛撫される妄想をオカズに、全身が痺れるような甘い絶頂に達してしまった。 倦怠感に指先ひとつ動かすのも億劫で、祥悟はシーツに頬をあてたまま、しばらく放心していた。 このまま目を瞑れば、優しい微睡みの中に逃げこめる。 うとうとしかけて、寒くなって覚醒した。 ダメだ。この時期にこの格好のままで寝たら、間違いなく風邪をひく。 怠い身体を無理やりシーツから引き剥がし、腕に力を入れて起き上がる。 その目が、シーツの上に転がっている携帯電話に吸い寄せられた。 着信のライトが点滅している。 画面表示の名前は「真名瀬 智也」 慌てて手を伸ばし、電話に出ようとしたが切れた。 こんな時間に、智也から電話なんて珍しい。 自分が今していた行為を見透かされた気がして、すぐに折り返すのが躊躇われた。 ……ばーか。何してたかなんて、智也に分かるわけねーし。 祥悟は苦笑すると、リダイヤルボタンを押そうとした。その時再び、手の中の携帯電話が着信を告げる。 表示された相手の名前は「橘 里沙」 祥悟は息をのみ、急いで電話に出た。 ※挿話「猫の秘め事」ーendー

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