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第271話 秋艶58

「祥……、きみ、勃ってた……の?あの状況で?」 思わず独り言のように呟くと、祥悟は眉をしかめた。 「なにその顔。ひょっとして呆れてんのかよ?」 「や、いや、そうじゃなくて」 慌てて首を横に振ると、祥悟はぷぅっと頬をふくらませた。 「おまえは下、スラックスだし上着で隠れてるからいいけどさ、俺のこの服、ペラッペラじゃん?デカくなってんのバレバレになっちまうって、結構焦ってたんだぜ?」 その言葉に、智也は思わず、彼の股間を見つめてしまった。 たしかに、祥悟の今回の衣装は身体のラインが丸分かりのかなり薄い生地だ。それは彼のしなやかで美しい身体を強調していたが、撮影本番中にそっちの部分が強調されるのは、さぞかし不本意だろう。 「ばっか。見んなっつーの」 祥悟は不貞腐れた顔で手を伸ばし、こちらの視線を遮ろうとする。その仕草が可愛らしくて、智也は思わず破顔した。 「ふふ。今は大人しいみたいだね」 「ちっ。面白がってるし。変なの映ってねえか、映像全部チェックしといた。あの監督って、結構お調子者だからさ。面白がってそういうの、使っちまいそうで怖いんだよね」 祥悟の拗ねた物言いに、智也はくすくす笑いながら、心の中の重しが取れて軽やかになっていくのを感じていた。 妙な気遣いだけで祥悟は相手に慰めを言うようなタイプではない。 いつだって思ったことを、シンプルに口に出しているだけだ。 自分の心が卑屈に歪んでいるから、穿った考えになってしまったのだろう。 「そうか。そんなに俺、エロい顔してたのか……」 「まあね。仕事によってはそういうの、出さねえ方がいいもんもあるけどさ。バリエーションは持ってた方が入ってくる仕事の幅、広がるじゃん?おまえのそういうとこ、俺はめちゃくちゃ羨ましいけどな」 祥悟はそう言って空を見上げ、眩しそうに目を細めた。智也も同じ空を見上げて 「ありがとう、祥。正直、今日は本当に助かったよ。俺に、新しい自分を気づかせてくれたのは君だからね」 祥悟は横目でこちらを見て、にやりと笑うと 「んじゃさ、ご褒美よこせよな」 「え?……ご褒美?」 「そ。さっきマジでその気になっちゃったからさ。俺、まだなんとなーく身体火照ってんの」 祥悟はちょっと淫靡に笑って、いたずら猫のように伸び上がってくると、手を伸ばしてこちらの頬に触れた。 「おまえのさ、エロいキス、ちょうだい?」 囁いて小首を傾げる。これはさっきの撮影中、何度も翻弄された顔だ。 「ここで?」 「ん。ここで」 智也は彼の腕を掴んでぐいっと引き上げた。祥悟は楽しげに身体をくねらせ、膝の上に跨がってくる。 うっすらと唇を開いて誘う祥悟に、智也はゆっくりと顔を寄せた。 目を閉じる寸前の彼の顔は、暮れゆく夕焼け空を写して、秋色に染まっていた。 そっと乾いた唇が触れ合う。いったん離れて再び重なり合う。微かな吐息を交わらせながら、重なりは徐々に深くなっていく。 「ん……ぅ」 互いに開いた唇の間で、濡れた舌が絡み合う。 智也は、祥悟の華奢な身体をしっかり抱き寄せて、その甘い蜜をしっとりと吸い上げた。

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