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第272話 秋艶59

企画の撮影はその後も順調に進み、宣伝対象の商材は下着から化粧品に移った。 化粧品のテーマは「秋艶」 メインのポスター撮りはスタジオを出て、外での撮影となる。 その日は天候に恵まれ、絶好のロケ日和だった。朝、事務所の方から急遽、スタジオではなくロケ地に直接向かうように連絡を受けて、智也は自分の車で途中で祥悟を拾って、現地に向かうことにした。 マンションからは車で一時間ほどの、郊外にある古い別荘地が今日の撮影現場だ。 このロケは完全に祥悟の単独で、智也自身は出番はない。事務所からは公休扱いにしてもいいと言われたが、智也は企画書を見た時からこのポスター撮りをかなり楽しみにしていたのだ。だから、自ら祥悟の送り迎えをかってでた。智也のマネージャーは「何も貴方が運転手なんかしなくてもいいのに…」とちょっと戸惑った様子だったが、機嫌を損ねた時の祥悟の扱いが誰よりも上手い智也に、結局は任せられることになった。 祥悟は先週、1日も休みを取れず、慌ただしい毎日を過ごしていたようだ。 マンションに着いて、玄関ベルを鳴らすと、不機嫌を顔に貼り付けた祥悟が、濡れた髪をタオルでガシガシ拭きながらドアを開けた。 「おはよう、祥」 「んー。つか、なんでおまえ?」 「事務所から連絡きてないかい?今日は俺が、君の送り迎えだ」 「ふーん……」 祥悟はにこりともせず、顎をしゃくって中に入れと無言で促す。 祥悟の後を追ってリビングに行くと、彼はタオルをテーブルに放り出し、タンクトップと下着だけの姿で、椅子にどさっと腰をおろした。 「すぐに出発?」 「いや。ちょっと早めに出たからね。あと30分ぐらいはゆっくり出来るよ」 「んー」 祥悟は飲みかけのスムージーに手を伸ばし、ストローを口に咥えかけて、ひょいっとこちらを見上げ 「おまえも飲むんなら、冷蔵庫にあるし。好きなの飲めば?」 「いや、ありがとう。朝食、もしかしてそれだけかい?」 祥悟はストローを咥え、さして美味くもなさぞうに残りを飲みながら頷く。 「途中、どこかでサンドイッチでも買おうか」 「いらない。全っ然、食欲ねえし」 智也は椅子を引っ張ってきて、祥悟の隣に腰をおろした。 「昨夜はちゃんと食べたかい?」 「ん……。少しはね」 嘘だ。この返事だとおそらく、ろくに何も口にしていないのだろう。 部屋の照明のせいもあるのか、祥悟の顔色がかなり悪い。 智也は顔を覗き込んで 「体調、悪いの?」 「このところずっとこんな感じ。疲れと寝不足。今日のロケ終わったら、ようやく3日続けて休みだってさ」 智也はほっと胸を撫で下ろした。 「そう。連休が貰えたんだね。よかった」 「よくねーし。連休じゃなくてさ、いっそ引退でも俺は全然構わねえけどな」 イライラと言い返して、祥悟は飲み終わった紙パックを部屋の隅のゴミ箱に向かって投げた。 いったん壁に当たったパックが、ゴミ箱の中にすとんっと落ちる。 祥悟の機嫌はどうやら最悪らしい。 無理もないが。

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