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第274話 秋艶61
マンションを早めに出たので、現場には思った以上に早く着いた。場所だけ確認してから、通りすがりのちょっと良さげな専門店まで戻り、祥悟と自分用にサンドイッチとスープをテイクアウトして車に戻る。
あれから、祥悟はぐっすりと眠ったままだった。そっと運転席のドアを開けると、気配を感じたのか、祥悟は小さく唸ってゆっくり目を開けた。
寝起きのぽやーっとした顔のまま、不思議そうにこちらを見る彼に、智也は微笑みかけた。
「起こしちゃったかい?」
祥悟はぱちぱちと瞬きをすると、うーんっと腕を伸ばして
「俺、寝てたのか。もう着いたんだ?」
「うん。まだ早いから、朝食を買ってきたんだ」
智也は運転席に乗り込みながら、袋を掲げてみせた。
「食べられそうかい?」
祥悟は固まった身体をほぐしながら、袋の中を覗き込み
「あ。美味そうかも」
「少しでもいいから食べておいた方がいい。スープは熱いから気をつけてね」
袋から祥悟の分のサンドイッチとスープがセットされた紙トレーを取り出し、膝の上に乗せてやると、まだちょっと眠たそうに欠伸を噛み殺しながら
「さんきゅ。おまえってさ、いい奥さんになれそうだよね」
「え?」
祥悟は口の端をきゅっとあげて笑い
「なんつーかさ、至れり尽くせり?俺の付き人くんより全然気が利くしさ」
寝起きの割りにご機嫌良さげに窓の外を見て
「これって、その店?おまえ知ってたの?」
「いや。さっき通りかかっていい感じだなってね」
「ふーん」
祥悟はサンドイッチの包み紙を開けて、目を輝かせた。
「お。美味そうっ」
「君の好きな物ばかり選んで挟んでもらったんだ。コーンスープもあるよ。熱いから火傷しないようにね」
祥悟はテイクアウト用のカップの蓋を取って、くんくんと鼻を蠢かし
「こっちも美味そうじゃん。ありがと、智也」
早速スプーンを手に取り、スープを掬ってふーふーし始めた祥悟に、智也は苦笑した。
「食欲、全然なかったんじゃないのかい?」
「うるさいなー。爆睡したから、腹減ったんだよ」
祥悟は横目でこちらを睨みつけて、冷ましたスープをひと口頬張ると、幸せそうに頬をゆるめた。
「どう?」
「美味い。いいからおまえも食えって」
マンションにいた時とは別人のような、彼の無邪気な笑顔に、智也は内心ほっと胸を撫で下ろした。
もともと、祥悟は細身の割りに結構な大食いなのだ。一緒に食事に行くと、いつも心配になるくらい、旺盛な食欲を披露してくれていた。
その彼が食欲不振というのは、正直かなりの参り方だ。ただの疲労ではなく、どこか悪くしているのではないかと心配だった。
大きな口を開けて、サンドイッチに齧り付く祥悟を横目に、智也も自分のサンドイッチを手に取った。
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