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第282話 秋艶69

夕飯はなるべく消化がよくて身体の負担にならない、野菜たっぷりのリゾットを作った。 智也は料理がそれほど得意でも好きでもない。 ただ、外食や出来合いの物ばかりでは飽きるから、必要に迫られて簡単な自炊はしていた。 ほとんどは手間のかからない、パスタやスープご飯、炒飯やリゾットぐらいだが。 祥悟は帰ってからずっと、ソファーの上でごろごろしていた。 智也が夕飯を作り始めた途端に、鼻をひくひくさせながら、キッチンにふらりとやってきた。 特に手伝うというわけでもなく、智也がやっていることを興味津々に黙って見ていただけだ。 こういう所も、祥悟はまるで猫みたいだなと、智也は内心思っていた。気の向くままにごく自然に行動して、邪魔をするわけでもなく、ただ独特の存在感があって気にかかる。そういう祥悟の立ち居振る舞いが、自分はすごく好きなのだ。 夕食の後、智也のいれた紅茶を飲んでいた祥悟が、ふと思い出したように顔をあげて 「ちょっと電話してくる」 そう言って立ち上がると、リビングを出て行った。 ここでかければいいのに……とは思ったが、智也はあえて何も言わなかった。 彼と自分は恋人でも同居人でもない。 プライベートを共有し合う間柄ではないのだ。 それほど時間もかからずに、祥悟は戻ってくると、椅子に腰掛け紅茶をひと口すすって 「な、智也。明日の朝さ、俺、おまえと一緒に出るわ」 「え?」 意外だった。 ずっとここにいるのだと思っていたのに。 「何か、用事かい?」 祥悟はうーんっと首を傾げて、ポケットから携帯電話を取り出した。 「里沙から何度も電話きててさ、うっせーからかけ直したんだけど。今日の撮影ん時、俺が体調悪かったの、誰かがあいつにチクったみたいでさ」 「ああ……」 祥悟はムスッとして首を竦め 「余計なこと、すんなよなー、まったく。里沙のやつ、すっげー心配してて、こっち来るって言い張るんだよね。顔見るだけだからってさ」 「あ、じゃあ来てもらえば…」 「冗談。ここには呼ばねーし」 「どうして?」 智也が問うと、祥悟は変な顔をした。 「どうしてって……当然じゃん。自分のセフレんとこに姉貴呼ぶとか、絶対変だろ?」 「……セ……セフレ……」 祥悟の口からまるで当然のことのように、あまりにも意外すぎる言葉が飛び出して、智也はオウム返しに呟いて絶句した。 ……セフレ……って、言った?え、今、祥悟は俺のことを、セフレって……。

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