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第283話 秋艶70

祥悟と自分の関係性を一言で表すのは難しい。 事務所の先輩後輩だが、友人という言葉は淡白過ぎる。ただ、セフレという言葉だけは全く思いつかなかった。 ……や。だって、セフレって……。 まだしてない。いや、たしかに、エロいことはしている。でもまだセックスフレンドと言えるようなことは……。 智也の反応が意外だったのか、祥悟は不思議そうな顔をして 「おまえ、それ、どんな顔だよ?俺、なんか変なこと言った?」 「や、だって祥。セフレは……変だよね」 「なんでさ?」 「だってまだ……」 「するんだろ?明日」 「う……」 ……それは、そうなんだけど、でも、 祥悟があっさりと言い切ったその関係性を表す言葉には、ちょっと複雑な気持ちになる。 嬉しい……よりは、せつないような。 こちらの内心の葛藤に祥悟は全く気づく様子もなく、手元の携帯電話に視線を落とし話題を変えた。 「あいつ、明日は午後から仕事だっつーからさ。朝のうち、ちょっとホテルに顔出してくるわ」 「里沙さん、まだ当分はホテル住まいなのかい?」 「んー。橘のおっさんからは、家に戻れって言われてるみたいだけどな。別のマンション見つかるまで粘るらしいよね。あいつ、1度言い出すと結構頑固だし」 祥悟は腕を伸ばし、くあーっと欠伸をして 「腹いっぱいになったら眠くなってきたかも」 「ああ。そろそろじゃあ寝室に行くかい?明日は朝早いからね」 祥悟は頷くと立ち上がった。 昼間のパニックが嘘のように、祥悟はすっかりいつもの彼に戻っていた。顔色もいいし、終始穏やかな表情を浮かべている。 セフレと言われたのは何だかもやもやするが、自分の所で寛いでくれて、リラックスしてもらえたのなら何よりだった。 寝室に行くと、すっかり勝手知ったる様子でベッドにあがり、壁際の定位置に陣取る。祥悟は布団に包まってこちらをちろっと見上げた。 「おまえはまだ寝ないのかよ?」 「うん。ちょっと洗濯しておきたいからね。先に寝ててくれ。おやすみ、祥」 にっこり笑ってそう言うと、祥悟は何か言いたげに口をもごもごさせたが、結局何も言わずに目を閉じた。すぐに寝息をたて始めた彼の綺麗な寝顔を確認してから、智也はそっと足を忍ばせ寝室を後にした。 翌朝は少し早めに一緒にマンションを出て、里沙のホテルにまず祥悟を車で送ってから、智也は仕事に向かった。撮影が長引く可能性があるから、いちおう祥悟には合鍵を渡しておいた。 無事に予定通り仕事を終えて、携帯電話で祥悟に電話をかけたが、呼出音の後、留守電に切り替わって、その後も折り返しの電話はなかった。 智也は少し思案してから、とりあえず今日と明日の分の食材の買い出しに向かった。 買い物中、時間を置いて2度、祥悟に電話をかけてみた。だが祥悟は電話に出ず、折り返しの電話も来なかった。 ……里沙さん、午後から仕事って言ってたけど……。 もう午後2時をまわっている。連絡が取れたら途中で祥悟を拾って、車で一緒にマンションに帰ろうと思っていたが、仕方がない。 智也は買い物を終えると、1人でマンションに戻った。

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