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第290話 秋艶77
ただ、こんなに立て続けにあの発作が起きるのなら、一度病院で診てもらった方がいいかもしれない。祥悟はきっと、拒絶するだろうが。
……後でそれとなく……聞いてみるかな。
自分がいつもそばにいられるとは限らないのだ。
「さ。そろそろいいよ。向こうで食べようか」
智也は笑いながら、嫌いな野菜を見つけようとまだ粘っている祥悟の手からお玉を取り上げて、鍋の火を止めた。
「どう?」
スプーンですくって口に入れた祥悟に、智也は恐る恐る聞いてみる。祥悟は口をもぐもぐさせながら、うーん…と首を傾げ
「ちょっと薄味?でも美味い」
「そうか。まだあれでも薄かったのか」
智也は自分もひと口すくって食べてみた。
たしかにちょっと薄味だが、鶏肉のダシが出ていて我ながらいい感じだ。
「苦手なものは俺が食べるから、残してもいいよ」
智也がにこにこしながらそう言うと、祥悟はムスッとして
「ガキじゃねーもん。こんくらい食べられるし」
ムキになって、苦手なカリフラワーを口に放り込む。
祥悟は結局、全部残さずに綺麗に平らげてくれた。食欲も戻っているならひと安心だ。
「なあ、智也。さっき何買いに行ってたのさ?これの材料?」
何気なく祥悟に聞かれて、智也ははっとした。
慌ててリビングのドアの辺りを見ると、袋から飛び出して床に転がっているワインの瓶が見えた。
「あー……」
立ち上がってドアまで行き、ワインを拾い上げる。瓶の底にヒビが入っていて、ぽたぽたと赤い液体が滴り落ちた。
「割れちゃったか……」
さっき祥悟の様子がおかしいのに気づいて、焦って床に放り出したのだ。もったいないことをしたが、仕方がない。
智也は苦笑しながら瓶を袋の中に入れて立ち上がった。そのままキッチンに床を拭く布巾を取りに行こうとして、何気なく祥悟の方を見て眉をひそめた。
祥悟は椅子から半分立ち上がって、こちらを見ている。彼の視線の先は自分の手元だ。
その顔がちょっと青ざめて強ばっているように感じた。
「さっき君の様子に慌ててしまってね。床に落としたんだよ」
智也の言葉に、祥悟がのろのろと顔をあげる。
「祥……?」
祥悟は瞬きをすると、すいっと目を逸らした。
「どうかしたのかい?」
「や。何でもねーし」
そっぽを向いたまま、椅子に腰をおろす。
智也は急いで瓶の入った袋をシンクに持っていった。雑巾を手にドアの所に戻り、零れてしまったワインを拭き取る。
「君と乾杯しようと思ってたんだよ。俺のお気に入りのワインなんだ」
「ふーん……」
祥悟はちらっとこちらを見て、椅子から立ち上がった。
「トイレ、貸して」
ぼそっと呟くと、ワインが零れていた床を避けるようにして、リビングから出て行った。
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