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第291話 秋艶78
食後の紅茶をいれて、祥悟が戻ってくるのを待っていたが、なかなか姿を現さない。
ちょっと心配になってきて、腰を浮かしかけた時、リビングのドアが開いた。
「なあ、風呂の用意、俺がしようか」
入ってくるなりそう言った祥悟は、顔色も悪くないしいつも通りだ。
智也はホッとして
「いや。もう掃除はしたよ。今、紅茶をいれたから飲んでて。お湯をはってくるよ」
祥悟は無言で首を竦めると椅子に腰をおろした。入れ違いに智也が、リビングを出て風呂場に向かう。
今夜、祥悟を抱く。
……と決心していたのだが、正直気持ちがぐらついていた。
彼を抱きたい。その気持ちは変わらない。ただ、彼の精神的な不安定さが心配だった。
……あんな状態の祥悟を、抱いてもいいのか?
彼が愛おしくて堪らない。
だからこそ、無理はさせたくない。
大切にしたいのだ。誰よりも。
浴槽にお湯を貯めながら、智也は深いため息をついた。
「やっぱり今夜はやめておこう」
リビングに戻ると、祥悟は紅茶を手にソファーの方に移動していた。智也が自分のカップを持って近づくとひょいと顔をあげ
「おまえのいれてくれる紅茶って、すっげーいい香り。これもお気に入りなわけ?」
智也は祥悟の隣に腰をおろすと
「そう。アールグレイっていう葉っぱだよ」
「ふーん。紅茶ってよく知らねえけど、なんか格好いい名前なのな」
祥悟は鼻をひくひくさせてから、紅茶をひと口すすった。智也もひと口すすってからカップをテーブルに置く。
「ねえ、祥。一度、病院で診てもらおう?」
改まって切り出すと、祥悟がちらっとこちらを見た。
「君のことが心配なんだ。俺も一緒に行くよ。だから…」
「行かない。病院なんか絶対に行かない」
「祥、でも、」
「行っても無駄だし。俺のこれは医者には治せねえもん」
「通ったこと、あるのかい?」
祥悟は首を竦めると、カップをテーブルに置いて、脇にあるクッションを両手で膝の上に抱え込んだ。
「医者がくれた薬なんか気休めだった。催眠療法とかさ、昔の話をしてみようとかさ、よく知りもしねえ相手にそんなこと、絶対にしたくないね」
智也は身を乗り出して
「でもね、祥。今日みたいなこと、また仕事中にあったらどうするの?俺はいつも一緒にはいてあげられないんだ。もし、」
「そん時は自分で何とかする。それにたぶんこれって、今だけだ。今回のはちょっとキツかったけどさ、そのうち治まるし」
「そんなこと、分からないじゃないか。どうしてそんな」
祥悟はこちらに顔を向けると
「分かるんだよ、俺には。もう何回も経験してるからさ。今回ひどくなっちまった原因も分かってんの」
「祥……」
「そんな顔、すんなってば」
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