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第292話 秋艶79
「……なんで俺のためにそんな必死になってくれんのさ?」
「え?いや、だってそれは……」
君のことが好きだからだよ。
と、心の中だけで呟く。
祥悟はくてっと肩に寄りかかってきた。
「智也ってさ、ほんと優しいよね。でもそれってやっぱ誰にでも、なんだろ?」
……いや。違うよ。君だから、俺は、
「こうしてると、なんかほっとするよな……」
智也はそっと手を回し、さり気なく祥悟の肩を抱いて引き寄せた。
心臓がドキドキする。
祥悟に聴こえてしまいそうだ。
「本気で心配してくれてんの、よくわかってる。でもさ、原因は自覚してるんだ。だからもう大丈夫だし」
「祥。その原因っていうのは、一時的なものなのかい?」
どんなにうるさがられても、食い下がらずにはいられない。
祥悟はちょっと困った顔になり、少し考えてから
「俺、こういうのって、あんま言いたくないんだよね。でも、智也にならいいか……。あのさ。前に言ったろ?好きな女の話」
「え?あ……ああ…」
例の彼女のことだ。唐突に出てきたその話題に、胸の奥がチリ…と痛む。
「そいつと、ここんとこ、ちょっといろいろあってさ……」
祥悟はもたれかかったまま、遠くを見るような目をした。
「…その、彼女さんと……最近会ったのかい?」
「んー……まあね。あいつって無防備だからさ。優しいけどすっげー残酷なんだ。で、どうにもなんなくってさ。めちゃくちゃ荒れて」
「うん」
「最悪のタイミングで、昔のこと、思い出すきっかけに遭遇しちまったの。たぶんそのせいなんだよね。すっげー苦手なもん見ちまったから。で、一気に頭ん中パニクって……あんな風になったわけ。でももう原因はわかったんだ。おまえのおかげでさ」
「……俺の?」
「んー。俺もなんでこんなにやなこと思い出したり変な夢ばっか見るのか、不思議だった。でもやっとわかった。そういうことなんだよな」
祥悟は独りで納得して、満足そうにしている。でも今の説明では何のことだか、こちらはサッパリだ。
胸の中がモヤモヤする。
祥悟の心をこれほどまで掻き乱すその彼女の存在が、妬ましかった。
「じゃあもう、パニックにはならないのかい?」
祥悟は首を竦めて
「それはわかんねーし。でもさ、時間が経てばそのうち落ち着くんじゃねーの?」
まるで他人事だ。
智也はそれ以上何も言えずに、ただ黙って彼の肩をきゅっと抱き寄せた。これ以上、立ち入ることの出来ない自分と彼の距離が、哀しくて苦しい。
「そうか…。じゃあこれ以上は言わないよ。でも、祥。どうしても自分だけで抱えきれなくなったら……その時は、俺を頼ってくれないか」
「んじゃさ、智也。ひとつだけ、おまえにお願いあるんだけど?」
「え?」
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