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第316話 君という鎖3
クールダウンしかけていた身体が、またじわじわと別の熱を持つ。気怠さがすっかり吹き飛んで、自分の心臓の音がうるさい。
智也は、落ち着けよと自分に言い聞かせながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。事後のこのタイミングなら、告白する勇気を出せるかもしれない。
「祥……君に、話が」
突然、腕の中の祥悟がひょこんっと顔をあげた。まともに目が合ってしまって、智也は内心狼狽え、目を泳がせる。
「なあなあ、智也。じゃあさ、俺が抱いた女の子たちもさ、こういう感覚なんだよな?きっと」
「…っ」
「へえ……そっか。うっわ。すげえな。女の気持ち、俺、身体でも理解しちゃったってことじゃん?」
はしゃぐ祥悟の声が近づいたり遠ざかったりする。
どうしたんだろう。俺の耳は。
うわんうわんと耳鳴りがしている気がする。
ふつふつと沸き起こっていた身体の熱が、冷水を浴びたように一気に冷えた。うるさく鳴り響いていた胸の鼓動も、もう聴こえない。
「ありがとな、智也。俺のことさ、ちゃんと抱いてくれて」
それは、どういう意味のお礼なんだろう。
これ以上先の言葉を、自分は聞いてはいけない気がするのだけど。
「祥…」
意気込んでいた気持ちは、風船が萎むように小さくなっていた。もぞもぞと腕の中で動く愛しい人を、ぎゅっとせつなく抱き締める。
「おまえとえっちしたおかげでさ、今まで知らねえこと、わかった気がする。おまえってさ、智也。やっぱ最高のセフレだよね」
ご機嫌な天使が釘を刺す。
いや、釘なんて可愛いものじゃない。
トドメを刺されて、ぐうの音も出ない。
最高のセフレ。
それは、祥悟にしてみたら褒め言葉なのだろう。
でも……自分にとってはそれは……。
「祥、君、すごく眠たそうだよ。さっきから呂律、回ってないよね」
智也は静かに語りかけて、祥悟の背中をとんとんと叩いた。祥悟はくわーっと欠伸をすると、こてんとこちらの胸に頭を預け
「ん……すっげ、眠い。なんか怠いし…」
言葉とおり、喋り方がぽやぽやだ。
智也はせつなく微笑んで
「もう眠るといいよ。おやすみ、祥」
「ん……おやすみ」
くたっと脱力した祥悟の身体を、苦しくないようにきちんとシーツ横たわらせる。その身体を柔らかく両腕で包み込んで、智也は滲んでくる涙を瞬きで散らした。
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