317 / 349
第317話 君という鎖4
「おはよ」
すぐ真上から声が降ってきて、智也は夢の残像から引き離された。
ぱちっと目を開けると、まだ夢の続きなのか、祥悟が自分を見下ろし微笑んでいる。
智也は寝惚けたまま腕を伸ばし、窓から射し込む朝日を受けて眩しいくらいに美しい天使を、ぐいっと引き寄せた。
「うわっ」
不意をつかれた祥悟が、胸に倒れ込んでくる。
重たい。温かい。
これは……夢じゃない。
智也は一気に覚醒して、嬉しい重みを抱き締めた。
「ちょ、くるし、」
胸に顔を埋めた天使が、じたばたと暴れる。
「ごめん」
智也は慌てて腕の力をゆるめた。
「おまえー。寝惚けてんだろ」
顔をあげた祥悟が、睨みつけてくる。
ああ。夢じゃない。
これは俺の大好きな祥悟だ。
「……ごめん。寝惚けてた」
智也がそう言って眉尻をさげると、祥悟はくすくすと胸の上で笑って
「おまえの寝起きってわりと新鮮。いっつも先に起きてるもんな。寝癖、すごいことになってるけど?」
智也が焦って髪に手をやると、祥悟が伸びあがって寝癖の部分を柔らかく撫でてくれた。
「祥……ありがとう。おはよう」
ふふっと笑う彼の髪の毛が、陽光に透けている。
もう見慣れたはずの彼なのに、ドキドキするくらい綺麗だ。
祥悟の顔が降りてくる。唇が触れる寸前まで、智也は目を開けていた。
ちゅっと啄まれて、心が震える。
なんて甘くて優しいキスだろう。
智也が唇を突き出すと、祥悟はまたくすくす笑いながら、今度は唇を深く重ねてきた。
寝起きの乾いた唇が、一気に潤う。
舌をちょこっと出してみると、祥悟はすかさずそれを捕らえて、唇でじゅ…っと吸ってきた。
はぁ……っとお互いに熱い吐息を絡めて、更にキスが深くなる。絡めとった彼の舌を口の中で転がすと、祥悟は微かに鼻から鳴き声を漏らして、両手の指先を髪の毛の中に差し込んでくる。
「ん……ふ……ん、ぅ……」
濃厚な口づけの合間に、耳を擽る祥悟の甘い吐息。
触れた場所から甘い疼きが次々と生まれて、身体がじわりじわりと熱くなる。
智也は、祥悟の襟足の髪の毛を掻き分け、首をグイッと引き寄せた。
これは、いわゆる朝チュンというやつだ。
愛し合い、深く身体を重ね合った後で、迎えた2人だけの目覚めの朝。
こんな至福の時があるなんて、夢みたいだ。
ともだちにシェアしよう!