325 / 349
第325話 君という鎖12
「うん。全然違うよ。すごく……可愛かった」
さっきまでの祥悟を思い出しながら、智也がしみじみ呟くと、祥悟にぺしんっと頭を叩かれた。
「なんだよ、それ。んじゃいつもは可愛くねえのかよ?」
智也は笑いながら祥悟の手首を掴むと
「そうじゃないよ。いつも以上に可愛かったってことだよ」
「うわ……。つか、可愛いとか、男が言われて喜ぶことじゃなかったし」
祥悟は嫌そうに顔を歪め、ちぇっと舌打ちした。
「可愛いかったし、すごく綺麗だった。それに色っぽかったな。声とか聴いてるだけでゾクゾクしたし、腰をくねらせたりお尻を突き出す仕草も……すごーく愛らしかった」
「ちょ、こらっ、ストップ」
祥悟は焦ったように両手で智也の口を塞ぐと
「も、いい。それ以上は言うな。すっげー馬鹿みたいに恥ずかしいわ、それ」
文句を言う祥悟の目元が薄く染まっている。珍しく盛大に照れているのだ。
……ふふ。そういう反応も可愛すぎるよ、君は。
完全に身体を繋ぐことで、一線を超えてしまうことで、祥悟と自分の関係が嫌な方に変わってしまうのだけが怖かった。
だが、今のところ、その心配は杞憂な気がする。いや、むしろ、いい変化しか見当たらない。
祥悟の今まで知らなかったいろいろな表情や姿を見れた。そのことが、何よりも幸せだ。
これで深みにハマるというなら、もうとっくの昔に自分はハマってしまっているのだから。
「なあなあ、俺ってさ、実は抱かれる素質ありってことかな?」
悪戯っぽい目をしてこちらに顔を寄せてくる祥悟の鼻先に、智也はちゅっとリップ音をたててキスをした。
「なんだよ、それ。答えになってねーし」
擽ったそうに鼻に皺を寄せ、口を尖らせる祥悟を、グイッと抱き寄せ思いっきり抱き締めた。
……君が好きだよ、祥。大好きだ。愛おしくて堪らないよ。
口には出せない想いの呪文。
今ここで、吐き出すことが出来たらどんなに幸せだろう。
「正直ね、君の身体はものすごく抱き心地がよかった。何度でも抱きたくなるよ」
「ふーん。そんなにいいのかよ?ゲイじゃねえおまえでも、ハマりそうな感じ?」
腕の中で呟くと、祥悟は舌を出して鎖骨あたりをペロペロと舐めた。
「こら。擽ったいよ」
「俺さ、女だけじゃなくて、結構そっち系の男にもよく誘われんのな。見た目が女みたいだからってのもあるのかもだけど。ひょっとしてそういう方にもモテるたちなのかな?」
……や。いやいや、それってどういう意味で言ってるの?
こんなことを言い出すのは悪い兆候だ。
自分と寝たことで、未知の快感を知ってしまった。
これはまずい。
嫌な予感しかしない。
ともだちにシェアしよう!