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第326話 君という鎖13

「ねえ、祥。君、その誘われてる相手って業界の人?」 「んー?いろいろ。飲みに行って誘われたり、街でナンパとか?」 祥悟は何でもないことのように言いながら、居心地のいい体勢をゴソゴソと探っている。 「そういうの、安易にOKしちゃ、ダメだよ?どんな相手なのか分からないし、何か病気を…」 「分かってるっつーの。そんなんほいほいついてくわけねーし。その為におまえと寝たんじゃん」 祥悟はうるさそうにこちらの口を手のひらで塞ぐと 「でもさ、ちゃんとした相手なら寝てもOKだろ?社会的地位もあって、まともな男ならさ」 「祥、」 智也は自分の口を塞ぐ祥悟の手を、ぐいっと掴んで外させた。 「ダメだよ。他の男と寝るなら、俺を誘ってくれればいい。君がそういう気分になったら、俺はいつでも相手をするから」 ムキになるな、と、頭の中で警鐘が鳴る。 ダメだ。こんな風に感情を剥き出しにしてしまったら。秘めている心が零れ落ちてしまう。悟られてはいけないのに。 分かっているのに止められない。 この気紛れで美しい仔猫を、ようやくこの腕に抱くことが出来たのに、よその誰かに盗られてしまう。他の男に抱かれてしまう。そんなことは、耐えられない。 案の定、祥悟はちょっと呆気に取られた顔をして、自分を見上げている。 「なに、おまえ」 「あ……いや、違うよ。そうじゃなくて、もちろん、君が望むなら、だけど」 しどろもどろに言い訳を呟きながら、胸の奥でシクシクし続ける痛みを必死に押し殺した。 落ち着け。自分はあくまでも、祥悟のセフレの1人に過ぎない。 束縛したい気持ちや独占欲は、全部捨ててしまえ。 「んー……。じゃあさ、そうしてくれる?」 「……え……?」 「や。俺さ、おまえが俺のこと、今後も抱く気あるか分かんなかったんだよね。おまえ、ゲイじゃねえし?これっきりかもしんねえだろ?」 何を言うのかと、智也はドキドキしながら、腕の中の仔猫を見つめた。 祥悟は長い睫毛を震わせながら、無邪気な笑顔で瞬きすると 「じゃ、今後おまえは、俺の専属のオトコな。他のやつ、抱いてもいいけど俺のことが優先。俺が抱いてつったらさ、絶対に嫌って言うなよ?断るの、なしな」 智也は思わず、ぽかんとして、祥悟の形のいい唇を見つめた。 この唇は今、何を言ったのだろう? ものすごい事を言われた……気がするのだが。

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