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第329話 君という鎖16
髪型のせいなのか、いつもと違う素直な笑顔のせいなのか、祥悟はちょっと幼く見える。
面白がって無邪気に余った袖をぷらぷらさせている仕草も、愛らしすぎる。
……うわ。うわ……うわ。
馬鹿みたいに心臓がドキドキして困る。
智也は表情に出さないように必死に堪えながら
「祥。そんなに腕をあげると、裾から見えてしまうよ」
かなりダボッとしたシャツだが、祥悟もそこそこ長身なのだ。丈は太ももに少しかかるぐらいで、かろうじて隠れている。要するに、ナニが見えてしまいそうなのだ。
「くく……別に見えたっていいけど?昨夜、散々見てるじゃん」
……いや、ダメだから。
見えそうで見えないギリギリというのは、素っ裸でいるよりかえって唆られるのだとわかった。
……参ったな……。
昨夜の祥悟の艶かしい媚態が脳裏にチラつく。抱いている間は無我夢中だったが、今頃になって記憶が鮮明によみがえってきている。
祥悟の何気ない表情や仕草のひとつひとつに、目が吸い寄せられてしまうのだ。
こんなエロ可愛いことをされたら、またベッドに押し倒したくなる。
……もう……無自覚過ぎてほんと、困るよ、君は……。
智也は内心ため息をつくと、ポーカーフェイスのままですたすたと祥悟に歩み寄り
「ほら。ここ、際ど過ぎて目の毒だ」
たしなめるつもりでわざとシャツの裾に手を伸ばし、ぎゅっと下に引っ張る。
祥悟は途端に目を煌めかせ、急に艶めいた表情を浮かべると
「ふふ。おまえさ、こういうのってそそられちゃったりする人?」
……だから。そういう顔はなしだって。
もともと、独特の蠱惑的な雰囲気を身に纏っている彼だが、男に抱かれたことでまたひと味違う艶を身につけたらしい。
危なっかしいくらい無意識に煽ってくる。
……心配事がもっと増えたかも……。
性別関係なしで誘われることが多い祥悟なのだ。自分が抱いたことで、要らぬ色気を身につけてしまったのなら、先の気苦労が思いやられる。
祥悟は自分から身を寄せてくると、こちらの手を掴んでグイッと自分に引き寄せ
「男ってさ、可愛い彼女に自分の服とかダボッと着せるの、好きでしょ」
祥悟は裾から伸びる自分の太ももに、こちらの手を押し付けさせてさわさわと動かし
「おまえも……こういうの、好き?」
むろん好きだ。いや、こういうのが唆られるってことを初めてリアルに実感した。
無邪気に煽る悪戯仔猫に、智也は雰囲気を少し変えると
「誘ってるの?祥。まだ抱かれ足りない?」
意識して低い声で囁いてみた。
祥悟はちょっと驚いた顔をしたが、すぐにきゅっと口の端をあげて笑い
「ふーん……その気になったわけ?やり足りないの、おまえの方だろ」
囁きながら顔を覗き込んでくる。
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