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第336話 君という鎖23
ひとりで舞い上がり、溢れる想いを込めて夢中で文字を打った後、智也はそれを保存してから静かにノートパソコンを閉じた。
気持ちはまだふわふわと落ち着かない。
だが、少し冷静になってくると、いろいろと気がかりなことが頭をよぎる。
まずは祥悟の体調についてだ。
病院にはいかない。原因は分かっているから大丈夫だ。
祥悟は頑なに言い張っていた。
無理やり病院に引きずっていくわけにはいかない。精神的なものが原因ならば、かえってストレスになってしまうだろう。
だが、激しい発作のような状態の祥悟を目の前で目撃しているから、あのまま放っておいていいのかすごく不安だ。
自分が側にいる時はまだいい。
だが、仕事の時に祥悟と一緒にいられる機会の方が珍しいのだ。
もしまた、あの発作を起こしてしまったら……。
そう考えると、不安で堪らなくなる。
そしてもうひとつ。
さっき予定を早めて、素っ気なく帰ってしまった祥悟の、本音がすごく気になっていた。
機嫌が悪そうでも怒ってるようでもなかったから、単に明日の仕事に備えて早めに帰宅しただけなのだとは……思う。
初めて、男の身体を受け入れたのだ。
その方面のことには疎い自分でも、抱かれた側の身体の負担がかなり大きいということは分かる。
祥悟は酷く気怠そうだった。
顔色は悪くなかったが、何となく気まずそうな表情をしていたような……気がする。
……もしかして……後悔してたり……しないだろうか……。
どうしても越えられなかった一線を越えてしまったことで、今までの2人のもどかしいけれど幸せな距離感を、失ってしまったんじゃないだろうか。
智也は、はぁ…っと深く吐息を漏らして首を横に振った。
今更だ。もう考えたって仕方ない。
祥悟が自分に抱かれることを望んでくれた。自分はそれに応えた。
それだけだ。
ひとり気を揉んでみたところで、祥悟がそのことをどう受け止めてどんな心の変化を示すかは、自分にはどうしようもないのだ。
……ダメだな……俺は。
次に顔を合わせた時に、祥悟の表情や態度にその答えは見つかるだろう。
……余計なことは考えるな。
せめて今日だけは、この腕に大好きな天使を抱き締めた幸せに浸っていたい。
……祥。大好きだ。
智也はソファーに放り出していたクッションを、ぎゅっと抱き締めた。
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