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第338話 君という鎖24
祥悟との新しい関係が始まってから、1週間が何事もなくのろのろと過ぎていった。
お互いに違う現場でそれぞれの仕事をこなす。祥悟からの電話を密かに待っている自分がいたが、電話はかかってこなかった。
明日はオフというその日、智也は珍しく、仕事帰りに1人で夜の街に向かった。
最近はめっきり1人でバーに行くこともなくなっていたが、何となくマンションの部屋にそのまま帰るのが寂しくて、以前よく行っていた繁華街の裏路地にある小さなショットバーに足を向けていた。
裏路地の奥まった場所にあるその店は、看板も控え目で、知る人ぞ知る隠れ家的なショットバーだ。1人で来ている客がほとんどで、酒の知識が豊富な初老のバーテンダーが、1人で切り盛りしている。店はオールナット材を用いた落ち着いた内装で、カウンター席の他にはテーブル席が2つ。
智也は店のドアを開けると、カウンター席の一番端に腰をおろした。
「お久しぶりですね」
「うん。最近あまり飲みに出掛けてないんです」
「お家に待っている人が?」
穏やかに微笑みながら問いかけるバーテンダーに、智也はふふっと笑って
「いや。相変わらず独り身の気楽さですよ」
「今日は何にしますか?」
「ジントニックをお願いします」
「かしこまりました」
酒を待つ間、智也はさり気なく店内を見回した。平日ど真ん中のこの時間は、まだ他の客も少ない。智也の他には2人連れの客と1人で飲みに来ている客だけだった。
酒には元々強くて、父親と兄2人に鍛えられているからザルなのだ。その気になれば顔色ひとつ変えずに何時間も飲んでいられる。だから、こうして店で飲むよりは、家でお気に入りのウィスキーやワインを飲む方が気楽だし経済的でもある。
ただここ数日、自分の部屋に1人でいると、すぐに祥悟のことばかり考えてしまって、電話が来ないかとソワソワしている自分が、なんとなく嫌だった。
そんなに気になるのなら、自分から電話してみればいい。でも、1回寝たぐらいで恋人面してしつこくなったと、祥悟に思われるのが怖い。
智也は出されたグラスの酒をひと口飲むと、そっとため息をついた。
自分にとっては特別な夜だったのだ。
でも祥悟にとっては、きっと違う。
割り切っているつもりではいても、あの体験を祥悟がどう思っているのか、やはり本音が気にかかる。
また寝てもいいと思っているのか1度きりで満足なのか。
以前と同じ関係でいられるのか、それとも距離を置かれてしまうのか。
……参ったなぁ……。
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