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第341話 君という鎖27※
苦い記憶がよみがえる。
祥悟は以前、売り出し中の人気モデルと交際妊娠疑惑騒動を起こして、謹慎処分になった。週刊誌の取材が殺到して、ほとぼりが冷めるまで自分のマンションには帰れなくなった彼を、智也は自分の祖父の家に匿っていた。
……まさかまた……何かやらかしたんじゃ……
エレベーターをおりて、部屋の前に行くと、智也は渋い顔のままドアベルを押した。
少し間が空いて、ドアがガチャリと開く。
腕が伸びてきて掴まれ、ぐいっと中に引きずり込まれた。
「しょ、…っ」
祥、と呼ぼうとして、唇を塞がれる。
閉まったドアの内側に押さえつけられるようにして、唇を奪われていた。
まるで食らいついてくるような口づけだった。微かに鼻を鳴らしながら、祥悟の舌が唇をこじ開け歯列を舐める。驚いて薄く開いた隙間に舌を差し込まれ、智也は息をするのも忘れて、祥悟の腕にしがみついた。
「ん…っふ、…んぅ……っん」
ぬめる舌が口腔を蠢き、こちらの舌を捕らえる。ねっとりと絡め取られてキツく吸われた。苦しい。
祥悟は華奢な身体をぐいぐい押し付けながら、貪るような口づけを続けた。
「ん……っ……はぁ……」
ようやく甘い呪縛から解き放たれる。
智也はハァハァと荒い吐息を漏らした。
貪られている間中、呼吸が止まっていたような気がする。
「祥。……っど、どうしたの?、」
「飢えてんの。すげぇ……シたい」
智也は目を丸くして、祥悟の仏頂面を見つめてしまった。
……シたいって……え、何を……
祥悟は、挑むような目をしながら手を伸ばしてきて、ジャケットの襟を掴むと無造作に左右に開いた。
「っ、祥、」
「おまえのキス、酒くさい。俺まで酔っちゃうし」
祥悟は掠れ声で囁くと、ようやくいつもの皮肉めいた笑みを浮かべ
「なあ、シよ?俺、いますっげーエロいことシたい」
下からすくい上げるように見つめられて、智也はピキンっと固まった。
ダメだ。祥悟の目つきが色っぽ過ぎて、ドキドキする。どう反応を返していいか、分からない。
「祥、」
祥悟のほっそりした指が、首筋をスーッと撫でる。思わずビクッとすると、指先が揶揄うような動きで喉までおりていって、シャツのボタンを外し始めた。
ドアを開けた瞬間から真っ白になってストップしていた思考能力が、ようやく戻ってくる。
……ちょ、っと、祥。君……
落ち着いて、クールに、セフレらしく演じて。そう自分に言い聞かせていたのに、完全に祥悟のペースに乗せられている。
次々にボタンを外され、剥き出しになった鎖骨の上に、祥悟がちゅっと吸い付いた。
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