6 / 349
第6話 ムキになったら反撃されました2
唇が触れるぎりぎりの所に、祥悟の顔が迫ってくる。
「ねぇ」
さっき思わず貪ってしまった形のいい唇が、うっすらと開いて誘いかけてくる。
智也は甘い蜜に吸い寄せられるように、そっと唇を寄せた。祥悟のつけているフレグランスがふわっと鼻を擽る。甘くてちょっぴりスパイシーな香り。祥悟の吐く息も甘い。
掠めるだけのキス。
揶揄うように逸らされて、思わず追いかける。智也は祥悟の肩をぐっと掴むと、その悪戯な獲物を深く味わおうとして……
ードンドンドンっ
「真名瀬くんっ、いる?」
突然、ドアが激しくノックされた。その向こうから、焦ったような声が聞こえてくる。
「真名瀬くんっ、そこに祥悟くん、いる?」
あの声は、祥悟のマネージャーだ。
智也は飛び上がって、祥悟の唇から目を逸らしてドアを見た。慌てて返事をしようとする智也の唇を、祥悟の指がすいっと塞ぐ。
「いないって、言って」
智也は笑いながら囁く祥悟の顔をぎろっと睨みつけ、覆い被さっていたその身体をぐいっと押しのけた。
立ち上がって腕を掴み、奥の衣装ルームに引き摺るように連れて行く。中に押し込んで扉を閉めると、踵を返してドアの方に向かった。
ちょっと深呼吸して気持ちを落ち着けてから、内鍵を開けてドアを開ける。
「何ですか?どうしたんです、そんな焦って」
智也の言葉に、マネージャーの飯倉が部屋の中を覗き込みながら
「ああ、ごめんね。真名瀬くん。こっちに祥悟、来てないかな?もう撮影スタッフみんなスタンバってるのに、あいつ、いつの間にか消えちゃってさ」
「……またですか。いや。こっちには来てないですよ」
飯倉はため息をつくと
「ったく~。どこ行ったんだろ。あのクソガキっ」
(……ええ、たしかにクソガキですよね。気持ち、分かりますよ)
智也は心の中で飯倉に同意しつつ、ちらっと奥の衣装ルームを見た。今頃、そのクソガキはあの中でほくそ笑んでいるだろう。
「見かけたら連絡しますよ」
「ああ、ごめん。そうしてくれる?」
飯倉はまた大きなため息をつくと、ばたばたと廊下を去っていった。
ともだちにシェアしよう!