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第7話 反撃にはお仕置が必要です

マネージャーの飯倉を見送った後、智也はドアに再び内鍵をかけて、奥の衣装ルームに向かった。 祥悟が現場から抜け出す騒ぎには、何回か遭遇している。いつも大問題になる1歩手前で、ひょっこりと戻ってくるらしく、始末書ものの事態にはなっていないようだが、ベテランマネージャーの飯倉をかなり手こずらせているらしい。 姉の里沙が事務所社長の養女だということもあって、誰も表立って文句は言わないが、祥悟のやんちゃには手を焼いているらしい。こんな騒ぎばかり起こしていたら、いくら社長の縁者で事務所の稼ぎ頭だと言っても、周囲の反感を買うばかりだ。 この業界の人間は皆、お互いがライバルだ。周りは、隙あらば自分がその位置に取って代わろうと、虎視眈々と狙っている連中ばかりなのだ。 (……だからって、俺が余計なお節介してやる義理、ないんだけどな) 智也がため息をつきつつも、余計なお節介をしたくなるのは、祥悟の見てくれだけではない不思議な才能とオーラを、誰よりも間近で見せつけられた経験があるからだった。 それに……惚れた弱みも……あるのかもしれない。 (……さてと。どうお仕置きしてやろうかな) 衣装ルームの扉の前で、智也は深呼吸して表情を引き締めると、音を立てないようにそっと扉を開けた。 悪戯が成功した子どものように、満足そうにほくそ笑んでいるだろうと思っていた祥悟は、予想に反して、部屋の奥で荷物置き場状態になっている古いソファーに寝そべっていた。 (……この状況で呑気に寝てるのか?) 智也はむっとして、つかつかと祥悟に歩み寄る。積まれたダンボールの脇からひょいっと覗き込んで、智也ははっと目を見張った。 祥悟は長い手足を抱え込むようにして、ソファーの隅で丸まっていた。まるで仔猫か、母親の胎内にいる赤ん坊のように。 その寝顔はひどくあどけなくて、さっき自分をおちょくっていた、あのクソ生意気で無駄に色気のある少年とは、別人のようだった。 智也は息を潜め、忍び足でソファーに近づくと、祥悟の前に膝をついた。 すよすよと心地よさげに眠る祥悟の目の下には、うっすらと隈がある。現在売れっ子モデルのこの少年は、雑誌の撮影やらテレビ出演やらで、このところ超過密スケジュールの毎日だと聞いている。 (……そうか……。疲れてるんだな。寝不足なのか) 撮影と取材の合い間の休憩や移動では、充分な睡眠時間を取れないのだろう。

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