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第8話 必要なのは自制心でした1
傍目には自由奔放でやりたい放題に映るこの気まぐれ仔猫にも、傍からは分からない苦労や鬱屈があるのかもしれない。
(……それにしても、綺麗な子だな……)
祥悟の傍らに膝をつき、寝顔を見つめる智也の頬が思わずゆるむ。
思えば、この子との出逢いからして、衝撃的だった。
社長が新しく見つけ出してきた人形のように綺麗な双子。養子として引き取って密かにデビュー前の特別レッスン中だと、社内では随分前から噂になっていた。
大手プロダクションに勤務していた頃から、新人発掘とそのマネジメントには定評のあった橘社長が、自社の看板になる人材を育成中だと聞いて、智也も心密かに会うのを楽しみにしていたのだ。
(……たしかに噂以上だったな)
あの日、智也は双子の片割れに恋をした。
姉ではなく、弟の方に。
自分はそういう方面には、淡白なのだとずっと思っていた。女の子に誘われて付き合ってみても、自分から積極的にはなれなくて、いつの間にか自然消滅してしまう。恋とか愛とかそういう感情に、自分は不向きなんだと思っていたのだ。
見た目はそっくりな双子の、姉ではなく弟に、自分でもびっくりするくらいときめいてしまった。
ああ……そうか。俺は淡白なんじゃなくて、今まで恋愛対象を間違えていただけなのか。
特にショックも受けずに冷静に受け止めた。普通はもう少し動揺するのかもしれないが、そのくらい、この子に惹かれてしまうことは、自分の中ですごく自然なことだったのだ。
もちろん、そんな感情は表には出さない。この子はあくまでも同じ事務所の可愛い後輩だ。
ゲイかもしれないと自覚したからと言って、自分からぐいぐいいけるタイプじゃないし、そんな感情を向けられても祥悟だって迷惑だろう。
心の中でそっと想うだけでいい。
それ以上のことなんか別に望まない。
……つもりなのだが……。
さっき、ムキになって大人のキスを仕掛けて、うっかり深く踏み込み過ぎた。
あの蕩けそうな感触が、今も生々しく残っている。
鼻から抜ける可愛らしい声。
あまやかな吐息。
震えながらきゅっと腕を掴み締めてきた細い指。
触れた唇のしっとりとした柔らかさ。
(……っ)
思い出してうっとりしかけて、智也ははっと我に返った。
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