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第10話 自制心で誘惑を退けました
「…………」
智也は、触れる寸前まで迫る祥悟のきらきらした目を、じ……っと睨んだ。その無言の威圧にも、祥悟はまったく怯む様子もない。
(……だからさ、大人を揶揄うなっていうんだよ)
心の中で文句を言いながら睨みつけても、ついつい見蕩れてしまう。
(……好きだなぁ。この挑むような挑発的な目。うっすらと開いて誘っている唇。このまま襲いかかって、押さえつけてむしゃぶりつきたくなる)
智也は内心の葛藤はおくびにも出さずに、無表情のままため息をついた。
「大人を揶揄うなよ。ほら、立って。みんなスタンバってるって言ってる。これ以上待たせると、里沙に迷惑がかかるよ」
智也の穏やかな返しに、祥悟はみるみる瞳に失望の色を滲ませた。唇を尖らせ、頬を膨らませた子どもっぽい顔になって
「ちぇっ。なにそのつまんねえお説教。智也って全っ然、面白くないよね」
「面白いわけないだろう?状況わかってる?いいからおいで」
祥悟はむくれた顔で智也を睨んでいたが、やがて諦めたのか首を竦めて、智也に向かって両手を差し出した。
立ち上がるから手を貸せと、当然のように要求してくるその姿が、こ憎たらしいのに妙に様になっている。
智也は笑いを噛み殺しながら、かがみ込んだ。
(……我が儘いっぱいのお姫さまか。でもこういうの、この子らしくて可愛いって思ってしまう俺も……大概だよな)
祥悟はたしかに息を飲むような綺麗な容姿だが、姉の里沙のように素直で従順な子なら、おそらく自分のアンテナには引っかからなかったのだ。
当然のように智也の首に手を回して立ち上がろうとした祥悟の身体を、智也は深くかがみ込んで掬い上げるように抱きかかえた。
……いわゆる、お姫さま抱っこというやつだ。
意表をつかれた祥悟が、目を丸くして見上げてくる。
「……は?なにこれ。何やってんの?」
祥悟の少し焦った声に、智也は少しだけ仕返ししてやれたと内心ほくそ笑みながら
「お姫さま抱っこ。このまま連れて行ってあげるよ。スタジオまで」
祥悟は一瞬ぽかんとしてから、少し顔を赤くして
「冗談。おまえ、ばっかじゃないの?は?ちょっ、降ろせよ」
「こら、暴れたら危ないよ。大人しくしてて」
言いながら衣装ルームを出て、控え室のドアに向かう。祥悟は腕の中でじたばたして
「降ろせったら、ばか智也っ。格好悪いだろ、こんなのっ」
智也はドアを開け、腕の中の祥悟を見下ろすと
「大人を揶揄った罰だよ、眠り姫」
そう言って、ちょっと意地悪な顔でにっこりと微笑んだ。
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