12 / 349
第12話 舞い降りた恋2
(……やっぱり天性のものだよな)
撮影の直前まで、不機嫌を絵に描いたような顔で智也を睨みつけていた祥悟は、セットに入った途端にがらっと雰囲気を変えた。
今回の新作フレグランスのテーマは「春の訪れ」だ。真っ白な衣装の双子の妖精が、ようやく訪れた春を喜び、咲き競う花たちの香りをその身に纏う。
瓶はアプリコットピンクの愛らしいデザインで、フローラルベースの少し甘い香り。
白い衣装の上に柔らかく羽織った薄いオーガンジー素材の布が、照明を浴びて春色に煌めく。
あえて無表情で遠くを見るような眼差しをする里沙と、うっとりと花のように微笑む祥悟。瓜二つの美少女が魅せる対照的な印象が、ただ愛らしいだけではない不思議な空気感を作り出していく。
最初、キャラが逆じゃないかと思ったが、2人は見事にクライアントの要望に応えていた。むしろ普段のキャラとは真逆の演出は、2人の中性的な雰囲気を強調していた。
撮影の間中、智也はただひたすら祥悟だけを目で追い続けていた。祥悟はというと、撮影が始まってから1度もこちらを見ない。
仕事をしている時の祥悟の集中力は、とても10代半ばの少年とは思えなかった。本人はあまりこの仕事に乗り気ではないようだが、天職なんじゃないかと智也は思っている。
撮影が終わり、祥悟が里沙と一緒にこちらに歩いてくる。
智也は夢から覚めたような気分で、真っ直ぐに向かってくる祥悟に、にこっと微笑んだ。
「お疲れさま」
里沙がにこにこしながら頭を下げる。その横で祥悟は立ち止まると、智也の顔を見上げて
「暇人。まだいたのかよ」
「ちょっと、祥、そんな言い方」
間に入ろうとする里沙を、先に控え室に行けと追い払うと、祥悟は顎をくいっとあげて不遜な顔になり
「喉、渇いた。なんか奢って」
さっきまでの繊細な可憐さはどこへ行ったのか、まるで女王様のような横柄な態度だ。
「着替えなくていいの?それ」
「今回のは自前。事務所で用意したやつだってさ。いいから下の喫茶室行こ。パフェも食いたい。もちろん、智也の奢りな」
(……なるほど。さっきの仕返しってことか)
パフェのおねだりなんて可愛いすぎる。
「いいよ。奢ってあげる。でもメイク落としてからじゃなくていいのかい?」
撮影用のメイクは結構濃い目だ。一般客も利用する下の喫茶室では、相当目立ってしまうだろう。
祥悟は首を傾げて、ちょっと考えてから
「別に俺は気になんねえし?」
「そうか。だったら行こう」
無頓着な祥悟に智也は苦笑して、連れ立ってスタジオを後にした。
ともだちにシェアしよう!