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第13話 舞い降りた恋3
「今日はこの後、フリーなのかい?」
予想通り、喫茶室では祥悟は悪目立ちして、店内にまばらにいる客の視線を独り占めしている。当の本人は、そんなことにはまったく頓着せず、メニューに集中しているが。
「ん~。珍しく空いてるよ。予定してた雑誌の撮影、なんか向こうがトラブって日程ズレた。あ、これ、美味そうっ」
祥悟の目がお目当てのパフェのページに釘付けになった。生意気な物言いはしていても、こういう所はやっぱりお子さまなのだ。
店に入るなり一番奥の席に行き、向かいに座ろうとした智也を手招きして、何故か4人掛けのテーブルに2人並んで座った。これでは余計に目立つだろうと言うと、祥悟は口を尖らせて
「智也ってさ、周りの目、気にしすぎ。いいじゃん、別に。向かい合って座るとか、遠いからやだし」
こういう祥悟の気紛れな言動に、内心どきどきしている自分に苦笑して、智也はメニューを覗き込んだ。
「え?それかい?ちょっとボリュームあり過ぎだろ」
目を輝かせながら、祥悟が指さしているのは、カップル専用の特大スペシャルパフェだ。
「は?これぐらい食えるでしょ。智也ってさ、甘いもん苦手なわけ?」
いつの間にかすっかり呼び捨てになっている祥悟に、智也は首を傾げて
「もしかしてそれ、俺も一緒に食べるのかい?」
「当然。ここのパフェさ、小さいやつだとプリン入ってないじゃん」
(……いや、それ、どんな理由だよ)
智也は内心突っ込みつつ、首を竦めた。
「俺、甘いものは無理だな。1人で食べられるの、選んでよ」
祥悟は信じられないものを見たというように、目を丸くして智也を見つめて
「パフェ食えないのかよ?うわぁ。甘いもの食えないとかさ、それ、人生の半分損してるじゃん」
また訳の分からない持論を言い放ち、むーっと顔をしかめると、祥悟はメニューをもう1度吟味し始めた。
智也はなんだか頬がむずむずしてきた。
なんだろう、この可愛い生き物は。
多忙な祥悟と、例え仕事の合間の休憩であっても、こうして一緒に喫茶室に来られること自体が珍しい。祥悟の方はさっきの仕返しに奢らせてラッキーぐらいの気持ちだろうが、智也にしてみたらこれはデートだ。
決して顔には出さないが、実はものすごーく嬉しかったりするのだ。さりげなく名前を呼び捨てにされているのも。
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