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第15話 舞い降りた恋5
「そうか。でも俺は、君が仕事してる時の表情、すごくいいと思うな。いきいきしてる」
「ふぅん……」
祥悟は興味なさそうに鼻を鳴らすと、背もたれに身体を預けて
「まあ、いろんな格好出来んのは楽しいかな。ヘアスタイルとかメイクとかさ、なんか別人みたいになれるじゃん?そういうの今までやったことなかったし。あと、美味いもんいろいろ食えるのもいいかも。……お、来たっ」
店員が運んできたパフェを見て、祥悟はぴょんと跳ねるように身を起こした。
智也もつられて目を向けて、テーブルに置かれたパフェの大きさに、思わずうわっと声を出した。
「デカイね。予想以上だ」
メニューの写真で想像していたより、かなり大きい。祥悟は目を輝かせながら、デザートスプーンを掴んで
「前に里沙とここ来た時、食べたんだ。あいつ、ダイエットとか言ってちょっとしか食わなかったけどね」
早速、上に乗っている生クリームと苺を、スプーンで器用に掬う祥悟の横顔を、智也はまじまじと見つめた。祥悟は蕩けるような顔で幸せそうに頬をゆるませている。
(……本当に好きなんだな、甘いものが)
さっき撮影現場で見せていた、透き通るような笑顔も綺麗だったが、今の無邪気な表情はちょっと反則だ。可愛すぎる。
普段の投げやりで不遜な言動からは、これほどの甘いもの好きとは予測不可能だった。
祥悟はわくわくした様子で口を開きかけて、ちらっとこちらを見る。
「智也も食ってよ」
カップル専用だから、スプーンは2つある。祥悟の目がテーブルに置かれたスプーンを早く取れと促している。
(……うわ。参ったな。これ、本当に俺も食うのか……)
智也は甘いもの全般、本当に得意ではない。でも少しは食べないと、折角の祥悟の笑顔が消えてしまいそうだ。
智也は意を決してスプーンを取り上げると、パフェを睨みつけた。
(……フルーツぐらいなら、いける。よし、生クリームは避けて苺を……)
覚悟を決めてそっと苺だけ掬おうとしたら、目の前に生クリームがたっぷり乗ったスプーンが、にゅっと差し出された。
「口、開けて?」
智也はちらっと祥悟を見た。眩しいぐらい無邪気な笑顔が、首を傾げてじっとこちらを見つめている。
すごく可愛い。
でも、この生クリームの量は……。
いやでも、これはお口あーんと言うやつだ。まるで恋人同士みたいな……。
智也はすかさず両者を天秤にかけた。
苦手な甘いものを食べて、後で胸焼けするのと、好きな相手のお口あーんで、幸せな気分になるのと。
結論はすぐに出た。
智也は恐る恐る口を開く。
その瞬間、どんなひと口だよ?っと突っ込みたくなる量の生クリームが、容赦なく口の中に押し込まれた。
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