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第16話 舞い降りた恋6

目を白黒させて生クリームと格闘していると、祥悟はパフェにパクつきながら 「甘いもん苦手って、じゃあさ、智也、酒とか強いわけ?」 智也はやっとの思いで口の中のものを飲み下すと、甘ったるい後味を消すために慌ててコーヒーを啜った。 「ああ、まあね。うちは兄貴が2人とも呑んべえだから。親父もザルだしね」 幸せそうにプリンを頬張った祥悟が、その言葉にばっとこちらを見た。 「え、兄貴2人もいんの‍? うわ。いいなぁ~智也。俺も兄貴、1人でいいから欲しかったし」 口の端に生クリームとチョコがついている。智也は苦笑して 「俺は姉貴か妹が欲しかったな。野郎ばかりじゃ華がないよ」 言いながら無意識に手が伸びて、祥悟の口の端のクリームを指先で拭っていた。そのまま紙ナプキンで拭こうとすると、祥悟がその手をがしっと掴む。 「もったいないじゃん」 祥悟が指先をぺろんっと舐める。 予期せぬ一瞬の出来事に、智也はピキっと固まってしまった。舐められた指先がじわっと熱い……気がする。 何事もなかったように、また大きなパフェに集中している祥悟の横顔を、智也はそっと盗み見た。 控え室でのキスから、喫茶室でのデート。 お口あーんに指先ぺろん。 今日は予期せぬ事のオンパレードだ。 (……なんだろう。今日は特別な日なのかな) 一気に縮まった憧れの少年との距離に、心臓はどきどきしっぱなしだ。 胸焼けしそうに甘ったるい気分なのは、さっき食べた生クリームのせいだけじゃない。 (……このシーン。後で小説につけ足しておこう) 趣味で書いている恋愛小説を思い浮かべた。智也は幸せな気分で、心の中にそっとメモ書きしてみる。 「里沙みたいな優しいお姉さんがいて、羨ましいよ」 祥悟はスプーンを空中で止めて、うーん……と首を傾げた。 「まあね、里沙はほんと可愛いし優しいよ。でもさ、双子の姉ってのがやだ。あいつが兄貴だったら……良かったのにさ」 智也はふふっと笑って 「お互い、ないものねだりだよね」 祥悟はため息をつくと、スプーンに山盛りにしたプリンとアイスを、再び智也に突き出した。 「食う‍?」 智也は首を竦めて 「いや、もう勘弁。君が食べて」 祥悟は不満そうに鼻を鳴らすと、スプーンをUターンさせて、ぱくっと自分の口に入れた。 「そんなに兄貴が欲しいなら、俺が君の兄貴になってやるよ」 何気ない感じで呟いた言葉に、祥悟は再び食べる手を止めて、じっとこちらを見つめ 「智也が兄貴かぁ……」 まるで品定めするように、上から下まで見てから、返事はせずに、またパフェに向かってしまう。 (……どさくさ紛れ過ぎたかな) 今日をきっかけに、もうちょっと祥悟と距離を縮めてみたい……なんて、つい思ってしまった。 余計なことを言ってしまったかな…と少し後悔し始めた時、祥悟が不意に呟いた。 「いいよ。智也なら。俺、いろいろ話せる兄貴、マジで欲しかったし。智也なら……いいよ」 (……うわ……) 思いがけない祥悟の返事が、頭の中でリフレインする。

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