16 / 349
第16話 舞い降りた恋6
目を白黒させて生クリームと格闘していると、祥悟はパフェにパクつきながら
「甘いもん苦手って、じゃあさ、智也、酒とか強いわけ?」
智也はやっとの思いで口の中のものを飲み下すと、甘ったるい後味を消すために慌ててコーヒーを啜った。
「ああ、まあね。うちは兄貴が2人とも呑んべえだから。親父もザルだしね」
幸せそうにプリンを頬張った祥悟が、その言葉にばっとこちらを見た。
「え、兄貴2人もいんの? うわ。いいなぁ~智也。俺も兄貴、1人でいいから欲しかったし」
口の端に生クリームとチョコがついている。智也は苦笑して
「俺は姉貴か妹が欲しかったな。野郎ばかりじゃ華がないよ」
言いながら無意識に手が伸びて、祥悟の口の端のクリームを指先で拭っていた。そのまま紙ナプキンで拭こうとすると、祥悟がその手をがしっと掴む。
「もったいないじゃん」
祥悟が指先をぺろんっと舐める。
予期せぬ一瞬の出来事に、智也はピキっと固まってしまった。舐められた指先がじわっと熱い……気がする。
何事もなかったように、また大きなパフェに集中している祥悟の横顔を、智也はそっと盗み見た。
控え室でのキスから、喫茶室でのデート。
お口あーんに指先ぺろん。
今日は予期せぬ事のオンパレードだ。
(……なんだろう。今日は特別な日なのかな)
一気に縮まった憧れの少年との距離に、心臓はどきどきしっぱなしだ。
胸焼けしそうに甘ったるい気分なのは、さっき食べた生クリームのせいだけじゃない。
(……このシーン。後で小説につけ足しておこう)
趣味で書いている恋愛小説を思い浮かべた。智也は幸せな気分で、心の中にそっとメモ書きしてみる。
「里沙みたいな優しいお姉さんがいて、羨ましいよ」
祥悟はスプーンを空中で止めて、うーん……と首を傾げた。
「まあね、里沙はほんと可愛いし優しいよ。でもさ、双子の姉ってのがやだ。あいつが兄貴だったら……良かったのにさ」
智也はふふっと笑って
「お互い、ないものねだりだよね」
祥悟はため息をつくと、スプーンに山盛りにしたプリンとアイスを、再び智也に突き出した。
「食う?」
智也は首を竦めて
「いや、もう勘弁。君が食べて」
祥悟は不満そうに鼻を鳴らすと、スプーンをUターンさせて、ぱくっと自分の口に入れた。
「そんなに兄貴が欲しいなら、俺が君の兄貴になってやるよ」
何気ない感じで呟いた言葉に、祥悟は再び食べる手を止めて、じっとこちらを見つめ
「智也が兄貴かぁ……」
まるで品定めするように、上から下まで見てから、返事はせずに、またパフェに向かってしまう。
(……どさくさ紛れ過ぎたかな)
今日をきっかけに、もうちょっと祥悟と距離を縮めてみたい……なんて、つい思ってしまった。
余計なことを言ってしまったかな…と少し後悔し始めた時、祥悟が不意に呟いた。
「いいよ。智也なら。俺、いろいろ話せる兄貴、マジで欲しかったし。智也なら……いいよ」
(……うわ……)
思いがけない祥悟の返事が、頭の中でリフレインする。
ともだちにシェアしよう!