26 / 349

第26話 舞い降りた恋16

下腹にずん……と熱が集まる。 これはキスなんて生易しいものじゃない。 これはまるで……。 自分の膝を跨ぐ格好で乗りあがっている祥悟の華奢な身体を、智也はぐっと引き寄せた。 重みを感じさせないしなやかな躯体の獣が、仰け反る智也をふわりと包み込む。 それは不思議な感覚だった。 唆されたとはいえ、今、積極的にキスを仕掛けているのは自分の方だ。 逃げ出しそうな獲物を捕えているのは、自分のはずなのだ。 それなのに、目には見えない蜘蛛の糸に雁字搦めに絡め取られて、甘美な死の口づけを与えられているような、奇妙な錯覚に囚われていた。 隙間なく絡まり合った舌が、ふいに解かれる。口づけを止め、唇を離した祥悟と自分の間に、透明な唾液が糸を引いた。 祥悟の赤い舌が、それをぺろっと舐め取る。 「ふふ。智也の顔、エロくなってる」 ちょっと悪戯っぽく笑んだ祥悟の瞳も、欲情に濡れていた。 普段の斜に構えたツンとした表情とも、今日見てしまったあどけない寝顔とも違う、16歳とは思えない大人びた艶。 次々と印象を変える祥悟の小悪魔っぷりに、くらくらしそうだ。 「大人を、揶揄うと、酷い目に逢うよ」 智也は掠れた声を振り絞った。 こんなにあからさまに挑発されたら、自制が効かなくなる。たとえ祥悟の方にその気がなくても、自分の恋愛対象は同性なのだ。こんなに強烈に煽られたら、嫌がる獲物を無理矢理に組み敷いてでも、キス以上のことをしたくなってしまう。 智也の言葉に、祥悟は少し驚いたように目を見張った。 「……なに、怒ってんの‍?酷い目って何さ‍?俺はただ、エロいキス、教えてって言っただけじゃん」 口を尖らせる祥悟に、智也はちょっと表情を和らげて 「怒って、ないよ。ただ、このまま続けると、俺の理性が飛ぶよってこと。君だって同じ男なんだから、分かるだろう?」 祥悟は分かるような分からないような微妙な表情で、智也の顔を黙ってしばらく見おろしていたが 「それって、俺のこと、抱きたくなっちまうって……こと‍?」 呟く祥悟の顔が、さっきとは打って変わって幼く、戸惑っているように響く。 (……やっぱり無自覚なのか……) 智也はふっ……と苦笑して、首を横に振り 「そこまでは言ってないよ。ただ、煽られ過ぎて、妙な気分にはなっちゃうかな。いじめて泣かせてみたくなる……みたいなね」 祥悟はふーんっと鼻を鳴らし 「それ、よく分かんねえし。ちょっとキスしただけじゃん」 (……ちょっとキス……ね……) 智也はがっくりと肩を落とすと、祥悟の頬にそっと手を当てて 「君、案外、自分の容姿に自覚ないんだな。あのね、祥悟くん。あの業界はその手の人間も多いんだよ。君が分かっててやってるならいいけど、もし無自覚なら、かなり強引にちょっかい掛けてくる輩も多いから、少し気をつけた方がいいよね」 うっかりその気になりかけた自分が、どの口で言うんだよと、智也は内心自分に突っ込みを入れていた。

ともだちにシェアしよう!