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第34話 波にも磯にもつかぬ恋5

店員が出ていくと、智也は祥悟の顔を見つめ返し 「どうしたの‍? 俺の顔に何かついてる?」 にこっとしながら問い掛けてみる。祥悟は一瞬きょとんとしてから、悪戯っぽい顔になり 「うん。目と鼻と口」 「それ、当たり前だから」 智也の呆れたような返事に、祥悟はくすくす笑って 「智也ってさ、よく見るとかなり整った顔してるよね。なんてーの‍? 和系の役者みたいな‍? 和服とか超似合いそうじゃん」 (……やっぱり正面で向かい合うってキツイな。こんなじっと見られてると緊張する……) 智也は引き攣りそうになる顔を抑えて、ふっと苦笑してみせて 「地味だろう?俺の顔。 社長の面接受けた時に一番に言われたよ。君は今の流行りの顔じゃないねって」 途端に祥悟が顔を顰めた。 「うっわ。何それ。あいつそんなこと言ったんだ‍?うっざ」 嫌そうにブス顔をしてみせる祥悟に、智也は思わず噴き出して 「そんな顔しない。美人が台無しだよ」 祥悟は自分の頬を、両手でぐにぃっと引っ張ってみせて 「こんな女顔より、智也のが全然いいじゃん。あのクソじじい、見る目ないっつーの」 「こーら。口悪いよ、くそじじいって。君の義理のお父さんなんだろ?」 「は‍?違うし。養子になったのは里沙だけ。俺はオマケだし‍? 赤の他人じゃん」 「……ああ……そうだったね。でも新人発掘には定評がある凄い人だよ、社長は」 祥悟はふくれっ面で首を竦めて 「俺、あいつ、嫌い」 呟く祥悟の声に苦々しい響きが滲む。智也は眉を潜め、祥悟の表情をそっと窺った。 自分のことをオマケだと言い放つ祥悟は、やはり橘社長との関係に屈託があるのだろうか。 悩み事があるのなら、聞いてあげたい。でも、自分と祥悟の距離は、ほんの少し縮まったばかりだ。 「ね、祥。君は……」 「あーぁ。飯、まだかな。俺、腹減って死にそう!」 智也の言葉を遮るように、祥悟はそう言ってふすまの方に目を向けた。智也は言いかけた言葉をそっと飲み込む。 (……余計なこと、聞かない方がいいのかな……) 智也は何も気づかないフリをして、話題を変えた。 「どうだった‍? 沖縄は」 急に話題を変えた智也に、祥悟も特に気にする風でもなく、んーっと首を傾げて 「撮影ズレたせいで、スケジュールがキツキツ。折角沖縄まで行ったのにさ、海で遊んでる暇もないんだぜ」 「うん。とんぼ返りだったよね」 「撮影はさ、クライアントが連れてきたモデルの娘が、超絶わがまま。結構みんな振り回されてた。なんかよく知らねえけど、お偉いさんのお嬢さんなんだってさ」 「あー……なるほどな。それ、よくあるよね。でも撮影自体は無事に終わったんだろう?」 「まあね」

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