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第46話 波にも磯にもつかぬ恋17
「おまえさ、何してんだよ?」
浴室の扉が開いて、祥悟がひょこっと顔だけ出した。考え込んでいた智也は、脱ぎかけていた下着を慌てて引き上げた。
「あ、いや……」
祥悟はトランクス一枚で固まってしまった智也の全身をちろ……っと眺めて
「先に脱がしといてモタモタしてんな。早く脱いで来いってば」
イライラとそれだけ言うと、バタンっと扉を閉めてしまった。
(……祥……君って男前すぎるよ)
急に怖気づいてしまった自分と違って、祥悟はやる気満々らしい。
……いや、やる気と言っても、祥悟が自分に求めているものと、自分が彼に求めているものは全然違うのだが。
(……もう、いいや。どうとでもなれっ)
そもそも、祥悟が嫌がることを強要する気は毛頭ないのだ。
(……男同士で、風呂に入るってだけだ、うん、それだけだ)
智也はやけくそ気味に下着を脱ぎ捨てると、備え付けのフェイスタオルを腰に巻き付け、ゆるく反応している自分の息子を隠して、浴室の扉を開けた。
「おまえ遅いから、風呂の湯貯めてた」
祥悟は湯船に座り込み、顔だけ出してちろっと睨みつけてくる。
「ごめん」
智也は苦笑すると、ゆっくり湯船に近づいた。見上げてくる祥悟の視線がちょっと痛い。
「ふうん……やっぱ智也ってさ、いいガタイしてるよね」
(……いや。そんなにじっくり見ないでくれる?)
智也はさり気なく、タオルの前を手で隠すようにして、横を向いた。
「あーぁ。俺、真面目にジム通おうかなぁ。もっと筋肉つけたらさ、貧相じゃなくなるよね」
「うーん…どうかな。あまり若いうちから無理に変な筋肉つけない方がいいよ。バランスが悪くなるからね」
(……さてと。これからどうしよう)
智也はシャワーノズルとボディシャンプーのボトルを見比べた。
風呂に誘った理由は「女の子と一緒にシャワーを浴びてその気にさせるテク」だ。
そんなの、自分の方が教えて欲しいくらいなのだが。
「祥、そのままでいいからちょっと立って」
なるべく祥悟の方を見ないようにしてそう言うと、祥悟は躊躇いもなく、バッと立ち上がる。
カランから落ちる熱めのお湯からモウモウと立ち上る湯気が、祥悟の肢体を隠してはいたが、つい気になって横目でちらちら見てしまった。
(……ヤバい。鼻血、出そうかも……)
ノンケの祥悟の無防備さが、ちょっと恨めしい。まあ、この状況を作ったのは自分だから、自業自得なのだけれど。
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