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第58話 波にも磯にもつかぬ恋29
あの小さな紅い唇。それが自分のそこに近づいて……そして……
(……っ)
想像しただけで、心臓がドキンっと跳ねた。いや、跳ねたのは心臓だけじゃないけれど。
智也はゴクリと唾を飲み込むと
「祥……君、何……言ってるの? そんなこと、だめだよ」
上擦った智也の声に、祥悟は不思議そうに首を傾げ
「なんでさ? 俺が感じるんなら、おまえだっておんなじだろ?」
「いや、でも……っ」
祥悟は智也の手をぐいっと引っ張って、もう1度ベッドに座らせると
「俺、やってみるからさ、智也、どう感じるか教えて?」
嬉々としてこちらの身体にのしかかりながら、シーツに押し倒してくる。
「や。祥、待って」
祥悟は上に馬乗りになると、着込んだシャツの胸元のボタンを外し始めた。
(……いやいや、ちょっと待って。これ、どんなシチュエーション?)
自分の方が、押し倒されて服を脱がされてる。祥悟は目を輝かせて、ものすごく楽しそうだけど……。
一応、止めさせようともがいてはみるが、びっくりし過ぎて、呆然としていて抵抗しきれない。祥悟は邪魔しようとするこちらの手をうるさげに払い除けながら、ボタンを次々外していった。
「ふーん……。風呂場でも思ったけどさ、智也って脱ぐと、結構いい身体してんのな。ジム行ってんだっけ? この辺の筋肉がさ、すげえ格好いい」
祥悟は若干悔しそうな顔で、肌蹴たシャツの間から剥き出しになった智也の胸を、細い指ですーっと撫でた。
(……っっ)
やばい。一瞬ゾクッとした。
邪な妄想をしてしまったせいか、身体が過敏な反応をしている。慌てて祥悟の手を引き剥がそうとすると、今度は首筋にいきなり顔を埋めてきた。
「……っ」
祥悟のふあふあの髪が、顔にかかって擽ったい。……じゃなくて、首筋に生暖かい息がかかり、更にチリっと走る痛み。
祥吾の唇が首筋に吸い付いていた。乾いた感触の後、そこがじわっと熱くなって……。
「……っ祥っ、だめ」
身を捩ったが、祥悟は吸い付いたまま離れない。ちゅーっときつく吸われて、舌でぺろぺろ舐められた。
(……こらこらこらこらっ)
祥悟は一旦顔を上げると、満足そうに微笑みながら、自分の残した印を眺め下ろし
「わ。なんか……やらしい。智也の首、紅くなってんじゃん」
「祥、ね? ダメだよ」
「なんでだよ? 智也、びくってなってんじゃん。……もしかして感じた?」
悪戯そうに目をくりくりさせて、触れる寸前まで顔を覗き込まれた。
その顔が可愛いのにちょっとエロくて、ドキドキする。
(……うわ。なんだろ……この倒錯感……っていうか、背徳感? 感じるっていうか、なんかもう訳が分からないんだけど……)
祥悟に吸われた首筋が、じわんじわんと熱を持つ。
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