58 / 349

第58話 波にも磯にもつかぬ恋29

あの小さな紅い唇。それが自分のそこに近づいて……そして…… (……っ) 想像しただけで、心臓がドキンっと跳ねた。いや、跳ねたのは心臓だけじゃないけれど。 智也はゴクリと唾を飲み込むと 「祥……君、何……言ってるの‍? そんなこと、だめだよ」 上擦った智也の声に、祥悟は不思議そうに首を傾げ 「なんでさ‍? 俺が感じるんなら、おまえだっておんなじだろ?」 「いや、でも……っ」 祥悟は智也の手をぐいっと引っ張って、もう1度ベッドに座らせると 「俺、やってみるからさ、智也、どう感じるか教えて‍?」 嬉々としてこちらの身体にのしかかりながら、シーツに押し倒してくる。 「や。祥、待って」 祥悟は上に馬乗りになると、着込んだシャツの胸元のボタンを外し始めた。 (……いやいや、ちょっと待って。これ、どんなシチュエーション‍?) 自分の方が、押し倒されて服を脱がされてる。祥悟は目を輝かせて、ものすごく楽しそうだけど……。 一応、止めさせようともがいてはみるが、びっくりし過ぎて、呆然としていて抵抗しきれない。祥悟は邪魔しようとするこちらの手をうるさげに払い除けながら、ボタンを次々外していった。 「ふーん……。風呂場でも思ったけどさ、智也って脱ぐと、結構いい身体してんのな。ジム行ってんだっけ? この辺の筋肉がさ、すげえ格好いい」 祥悟は若干悔しそうな顔で、肌蹴たシャツの間から剥き出しになった智也の胸を、細い指ですーっと撫でた。 (……っっ) やばい。一瞬ゾクッとした。 邪な妄想をしてしまったせいか、身体が過敏な反応をしている。慌てて祥悟の手を引き剥がそうとすると、今度は首筋にいきなり顔を埋めてきた。 「……っ」 祥悟のふあふあの髪が、顔にかかって擽ったい。……じゃなくて、首筋に生暖かい息がかかり、更にチリっと走る痛み。 祥吾の唇が首筋に吸い付いていた。乾いた感触の後、そこがじわっと熱くなって……。 「……っ祥っ、だめ」 身を捩ったが、祥悟は吸い付いたまま離れない。ちゅーっときつく吸われて、舌でぺろぺろ舐められた。 (……こらこらこらこらっ) 祥悟は一旦顔を上げると、満足そうに微笑みながら、自分の残した印を眺め下ろし 「わ。なんか……やらしい。智也の首、紅くなってんじゃん」 「祥、ね‍? ダメだよ」 「なんでだよ? 智也、びくってなってんじゃん。……もしかして感じた‍?」 悪戯そうに目をくりくりさせて、触れる寸前まで顔を覗き込まれた。 その顔が可愛いのにちょっとエロくて、ドキドキする。 (……うわ。なんだろ……この倒錯感……っていうか、背徳感‍? 感じるっていうか、なんかもう訳が分からないんだけど……) 祥悟に吸われた首筋が、じわんじわんと熱を持つ。

ともだちにシェアしよう!