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第63話 甘美な墓穴のその先に3※
「おまえっ。サイッテー」
(……うん。そうだね。俺は最低の馬鹿者だよね)
イった直後の放心状態から回復すると、祥悟はむくっと身を起こし、キツい目をしてこちらを睨みつけた。
白い肌は紅潮し、目には生理的な涙を滲ませている。
のぼりつめた瞬間の祥悟の顔は、息を呑むほど可愛くてエロくて綺麗だった。
でも……我慢出来ずに求めてしまった甘美なご褒美の代償は、とてつもなく大きい。
祥悟の了承も得ずに、ほとんど強引に口でイかせてしまったのだ。煌めくあの瞳に滲んでいるのは、もしかしたら悔し涙か、怒りの涙か。
(……いや。怒るだけじゃすまないかも。軽蔑されるか、嫌われるか。ひょっとしたら……もう絶交されるかも……)
この無邪気な天使は、好奇心いっぱいにこちらを煽りまくってくれたが、決してゲイじゃない。一時の興奮でしでかしてしまった自分の過ちに、目の前が真っ暗になりそうだ。
「ごめん……祥……。すまなかった。本当に申し訳ない」
智也はシーツに手をつき、項垂れた。怒りに燃える祥悟の目が、怖くて見ていられない。
「なに、謝ってんのさ」
「……ごめん」
「だからー。何謝ってんのって言ってんの。おまえ、顔あげろよ。こっち見ろって」
苛立つ祥悟の声が、全身に突き刺さる。智也はいっそう身を縮こまらせた。
「嫌なことは、しないって約束したのに……すまなかった」
「…………」
祥悟が黙り込む。
声がなくても、視線が突き刺さってくる。
どんなに詰られても、ただひたすら謝り続けるしかない。
口淫されたのは、きっと初めての経験のはずだ。
ゲイでもないのに、初めてのそれが男からだったなんて……ものすごいトラウマだろう。
本当に……謝って済む問題じゃない。
(……ああ。本当にもう、どうしたらいいんだろう。ごめん。ごめんね、祥)
「なあ……顔、あげろって」
祥悟の声のトーンが変わった。
怒ってるというより……呆れてるような忌々しげな声だ。
智也は、泣きたくなるのをぐっと堪えて、思い切って顔をあげた。
目が合って、ドキッとした。祥悟の顔に浮かんでるのは怒りでも呆れでもなく、ちょっと不安そうな戸惑いの色だった。
「ごめ……」
「なあ? 我慢出来なくなっちまったの?」
こちらの言葉を遮って、祥悟が静かに問いかけてくる。
「え……」
「俺が触ったから、おまえ……興奮しちまったわけ?」
(……えっと……。なんだろう。言ってる意味がよくわからない。なんだか頭がぼーっとして……)
「ポカンとすんなよなー。俺がおまえの、弄ったりしたからさ、俺のこと、襲いたくなったのかって聞いてんの」
(……や。襲いたくなったっていうか……襲わないようにしようとしたら、ああなっちゃったっていうか……)
「祥、ごめん、俺……」
「あーっもう。謝るのはいいっつってんじゃん。そうじゃなくてさ、ちゃんと質問に答えろよ」
「そ……そうだね。君に、その、触られて、自制が……効かなくなってしまって……」
目を微妙に逸らしながら、しどろもどろの答えになる。情けないくらい、声が掠れてしまった。
「ふーん……」
祥悟は納得いかない様子で、鼻を鳴らすと
「別に、怒ってねえし。……や、怒ってたけどさ、おまえの顔見たら、吹っ飛んだ」
「え……?」
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