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第67話 君との距離感2
「はぁっ? だから、俺は知らないっつってんだろっ」
事務所のドアを開けた途端に、ものすごい怒号が飛んできた。
(……あの声は……祥?)
智也はいったん入りかけた足を止め、廊下に出た。今の声は廊下の奥から聞こえてきたものだ。この階の突き当たりの部屋は社長室だった。
「待ちなさい。まだ話は終わってないぞ」
社長室のドアが開いている。そこから飛び出してきたのは……やっぱり祥悟だ。
ドアをバタンっと乱暴に閉めて、足音も荒くこちらにやって来る。
智也は廊下の真ん中に突っ立って、近づいてくる彼の姿を見つめた。
祥悟に会うのは久しぶりだ。そう、あのホテルでの日以来……もう1ヶ月近く経つ。
お互いに仕事が忙しく、顔を合わせる機会がなかった。
あの日は、近くの喫茶店でモーニングを食べて、車で送っていくという智也の言葉に祥悟は首を竦め、タクシーで帰るからいいと言ってあっさり帰ってしまった。その姿を見送りながら、そういえば連絡先を交換するの忘れちゃったな……と、智也はぼんやり考えていた。
周りを蹴散らすような勢いで近づいてきた祥悟に、智也は内心ドキドキしながら声をかけた。
「久しぶりだね、祥」
その声に、初めてこちらの存在に気づいたのか、祥悟ははっとした顔をして立ち止まる。
「……おまえかよ」
不機嫌を顔に貼り付け、鋭い眼差しで睨めつけてくる祥悟に、智也は微笑みかけ
「この後、予定はあるかな」
祥悟は一瞬、噛みつきそうな目をして何か言いかけたが、いったん口をつぐみ、ぷいっとそっぽを向いて
「別に? 用事は終わってるし」
「じゃあ、ちょっと待っててくれるかい? 事務所にこれ置いてくるから」
智也がそう言って手に持ったファイルをひらひらさせると、祥悟は横目でちろっとこっちを見て首を竦めた。
「早くすれば?」
「うん。すぐ済むよ」
智也は頷いて、もう1度事務所のドアを開けた。
大急ぎで要件を済ませ廊下に戻る。
もしかしたら帰ってしまったかな?と思ったが、祥悟はつまらなそうな顔をして腕を組み、廊下の壁に寄り掛かっていた。
「ごめんね。お待たせ」
智也が歩み寄ると、祥悟はだるそうに身体を起こし
「どこ、行くのさ?」
「昼飯、まだだろう?」
祥悟はふんっと鼻を鳴らした。
……まだご機嫌斜めらしい。
「奢るから付き合ってくれるかい? 行ってみたい店があるんだけどね、1人じゃちょっと入りにくいんだよ」
祥悟は目をぱちぱちとさせた。
「……奢って……くれんの?」
「ああ」
祥悟はもう1度鼻を鳴らすと、仕方ないなぁとでも言いたげに首を竦め
「どうせ暇だからいいけど?」
「ありがとう。じゃあ行こう」
智也がさっさとエレベーターの方に歩き出すと、祥悟は無言でついてきた。
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