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第69話 君との距離感4
「どう? 美味しいかい?」
頼んだメニューを黙々と食べている祥悟に、そっと声をかけると、祥悟はフォークを口元で止めて、顔をあげた。
「うん。美味い」
「朝は食べなかったの?」
「……用意してあったけど、学校遅刻しそうだったから食わなかった」
「……学校?……そうか、君、高校生だもんね」
祥悟はフォークに刺した肉を、ぽいっと口に放り込んで咀嚼すると
「俺は別に行きたくないんだけどさ、高校ぐらいは出ておけってうるさいんだよ、おっさんが。でも出席日数全然足りてねえから、卒業は無理かもな」
「相変わらず、忙しそうだよね、仕事」
祥悟はグラスの水を豪快に煽ると
「ん~…まあね。最近、里沙が人気出ててさ。雑誌のモデルとかの仕事増えてんの。女性雑誌とかファッション誌とか、はっきり言ってあいつ単体でいけるじゃん。でも里沙の現場は、もれなく俺もおまけで連れて行かれるからさ。スケジュールきつきつで、正直身体がもたねえし」
「ふふ。おまけって。君にもオファーが来てるんだろう?」
祥悟はむすーっと膨れて
「おっさんが双子モデルの売り込みで必死。俺はそれ、嫌なんだけどさ」
「お姉さんと一緒は嫌かい?」
「……里沙と仕事すんのは嫌いじゃねーし。それにあいつって、とことん無防備だからさ。変なやつにちょっかいかけられねえように、見張ってないとさ」
智也は思わず微笑んで
「姉貴思いの優しい弟だな」
途端に祥悟は形のいい眉をきゅっと顰めた。
「ちぇっ。そんなんじゃねーし」
舌打ちして、またフォークで肉をつつく。
(……照れ隠しか。可愛いな)
最近、雑誌を見る度に、祥悟が喜びそうなデザートが豊富な店を無意識にチェックしていた。次にいつ食事に誘えるかも、分からないのに。
だからこうして、食事に誘えたのが内心嬉しくて仕方がない。
餌付けのようにしてしか、彼との距離を縮められないのは、ちょっと情けないけれど。
(……出来れば……今日は連絡先を交換したいな)
事務所やマネージャーに聞けば、祥悟の連絡先は分かる。でもそれではちょっと味気ないのだ。お互いに気楽に連絡先を交換し合える。そういう風に距離を縮めてみたい。
「ね、祥。そろそろデザートを頼むかい? 」
タイミングを見計らって智也が声をかけると、祥悟は何故かむすっとした顔でこちらを見て
「あのさ、智也。こういう女が喜びそうな店の情報って、やっぱ下心あるから仕込んでおくんだよな?」
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