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第71話 君との距離感6
「すごいな……」
テーブルの上にどんっと置かれたデザートプレート。
(……これ、何人前……?)
ちらっと祥悟の顔を見る。
祥悟は満足そうな笑みを浮かべて、美しく盛り付けられたデザートの山をいろんな角度から眺めていた。
(……無邪気だな……こういう時の君の顔って)
いったい誰がこんなに食べるんだよっと突っ込んでやりたいが、こんな嬉しそうな顔をされたら、文句も言えない。
「な、智也。そっち行ってもいい?」
「え。そっち……?」
戸惑う智也の返事を待たずに、祥悟はさっさと立ち上がると、智也の隣りに腰をおろした。割りと広めのテーブルに向かい合って座っていたから、一気に彼との距離が縮まった。
……緊張する。
「どうして……隣?」
「向かい合って座んの、俺、好きじゃねーし」
祥悟はそう言ってぴとっと寄り添ってきて
「なあ、おまえどこ食う?」
まるでパーティー皿のような大きさのそれを、こちらに引き寄せた。
「どこって……俺、甘い物は」
苦手だと言ったはずだ。スタジオ下の喫茶店で、同じシチュエーションになった時も。
「ここら辺、おまえ用に選んだあんま甘くないやつな。俺1人じゃ絶対に食いきれねえから、よろしく」
こちらの抵抗を完全に無視して、祥悟はフォークを掴むと、楽しげにケーキをつつき始めた。
口の中の甘ったるさを、食後に頼んだブラックコーヒーで打ち消す。
祥悟にせっつかれて、智也は必死にノルマ分を消化していた。
自分用にと祥悟が選んでくれたケーキは、たっぷりと洋酒と香辛料を効かせた大人向けの味で、最初のひと口ふた口は意外といけたのだ。
でもやっぱりケーキはケーキだった。とてもじゃないが、ノルマ全部はクリア出来そうにない。
祥悟はというと、その細い身体のどこにそんなに入っていくのかと感心するほど、次々に甘ったるそうなケーキやムースを平らげていく。
「君、そんなに食べたら吹き出物が出来るだろう」
「ちぇ。マネージャーとおんなじこと言うなって。いつもはこういうの我慢してんの。あ、これ、すっげー美味い」
(……そうか。やっぱり甘い物は制限されているのか。こんなところ、マネージャーに見つかったら大目玉だな)
ちょっとヒヤリとしたが、祥悟の幸せそうな笑顔を見る誘惑には勝てそうにない。
「俺さ、ガキの頃の夢、ひとつ叶ったかも」
「え?」
「こういうの、ちょっと夢だったんだよね。ケーキいっぱい乗ってるデザートプレート。雑誌とかで見てさ、大人になったら腹一杯食ってやるって思ってた」
「……そうか」
「でもさ、せっかく自分で稼げるようになったってのに、体型維持だ、肌に悪いって、全然食わせてもらえねえし?」
祥悟はフォークに刺したケーキを幸せそうに見つめてから、ひょいっと智也の方に顔を向け
「ありがとな、智也」
そう言って、にこっと花のように笑った。
(……うわ。可愛い……)
この笑顔だ。これが見たくて、今日も祥悟をここに誘ったのだ。智也は思わず頬がゆるみそうになって、口に力を入れた。
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