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第85話 甘い試練6
……は? ……なに言ってるの?この子
智也は思わず惚けた顔で、アリサの顔をまじまじと見つめた。
……いや、どうして俺に?
あまりのことにぼんやりしてしまった智也の腕を、両手でがしっと捕まえて、アリサはベッドに向かう。半ば引き摺られるようにして、祥悟たちの座っているベッドまで行くと、アリサは急に勢いよく抱きついてきた。
「うわっ」
智也は咄嗟に避けきれず、彼女の身体を受け止めたまま、後ろのベッドに尻もちをつく。
「あ……っ、ちょっと」
慌てて体勢を立て直そうとしたが、アリサは上からのしかかってきた。
「私、もう子どもじゃないわ。キスぐらい出来るんだから」
ムキになって挑みかかってくるアリサは、どう考えても相手を間違えている。
でも意外に強い力で体重をかけてくる彼女に、智也は体勢を立て直しきれずにそのまま押し倒されてしまった。
上に跨ったアリサが顔の脇に両手をつき、顔を近づけてくる。
……ちょ……っと、待って、
智也は近づくアリサから顔を背け、必死に両手をあげて、彼女の肩を押し戻そうとした。
女の子相手に乱暴なことはしたくないけれど、乱暴されかけているのは、自分の方だ。
「おまえ、何やってんのさ」
不意に祥悟のキツい声が、上から降ってきた。アリサと自分の顔の間に手が伸びてきて、口を手のひらで覆われる。
「っ?」
怖い顔をして、こちらの口を手で庇っている祥悟と目が合った。祥悟はぷいっと目を逸らし、今度はアリサを睨みつけて
「なんでこいつを襲ってんだよ? アリサ」
「だって……」
祥悟はぐいっと身を乗り出してきて、智也の胸上に乗り上がると、アリサの肩を掴んだ。
「だってじゃねえだろ」
低く唸るような声。
祥悟は何故か、酷く怒っている。
そのまま、アリサを智也の向こう側に突き飛ばし、仰向けに転がった彼女の両手を、上からシーツに縫い付ける。
「相手、間違ってんじゃねーよ。アリサ」
言いながら、アリサに顔を近づけていき
「おまえが、好きなのは、俺なんだろ? ん? キスならあいつじゃなくて、俺にしろよ」
妙に艶めいて凄みのある男っぽい声で、アリサに囁きかける。アリサは黙りこみ、せつなげに瞳を揺らして祥悟を見上げた。
「目、閉じてな」
祥悟の低い囁きに、アリサが慌てたようにきゅっと目を瞑る。祥悟は唇の端をあげて薄く笑うと、こちらをちらっと見た。
自分の胸の上に乗りあがったまま、アリサに迫っている祥悟の、その一瞬の流し目にゾクッとする。
キスされようとしているのはアリサのはずなのに、まるで自分が彼に囁かれているような……気がした。
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