89 / 349
第89話 甘い試練10
悶々としているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしい。
狂ったように鳴る玄関チャイムの音で、智也はガバっと身を起こした。
直前に見ていた夢のせいで、心臓が嫌な感じにドキドキしている。
ーピンポーンピンポンピンポンピンポーン
また鳴り出した。
慌ててシーツの上に転がっている携帯電話を拾い上げると、時刻は2:47。
……誰だよ。こんな時間に。
智也は顔を顰め、渋々ベッドから降りた。
こんな真夜中にあんな鳴らし方をされたら、ご近所迷惑にも程がある。
玄関まで出て、ドアの覗き穴を見てみるが、誰も映っていない。
そのままドアを睨んで躊躇していると、今度はドアをガンガンと叩き出した。
……ちょ、ちょっと、なんなんだよ。
チェーンは掛けたままで恐る恐る鍵を外し、ドアを薄く開けてみる。
「おい。居留守使ってんなっつーの」
細く開いたドアから、低い唸り声が飛び込んできて、智也は思わずびくっと飛び上がった。
……え。この声って……祥?
慌てていったんドアを閉め、チェーンを外す。開けようとしたドアが急に開いて、智也はバランスを崩して前によろけ出た。
「うわっ」
祥悟が目を見開き、慌てて手を伸ばしてくる。がしっと抱きとめられていた。
「ちょっ、おまえ、なにやってんのさ。いきなり飛び出して、くんな」
両腕で受け止めてくれた祥悟が、焦ったような声をあげる。
「……っごめん」
「ばっか。酔ってんのかよ?」
こんな真夜中なのに、祥悟の声はまったく遠慮がない。
智也は体勢を立て直し、慌てて今度は祥悟の身体を引っ張って、中に入ってドアを閉めた。
「しー。声が、大きいよ」
「おまえが突っ込んできたんだし」
たしなめる智也をぎろっと睨みつけると、手を振りほどいて靴を脱ぐ。そのまま勝手知ったる様子で奥のリビングに入っていく祥悟を、智也は呆然と見送った。
「……え? あ、ちょっと、」
リビングのドアから、祥悟が顔を出す。
「なに突っ立ってんのさ。早く来いよな」
智也はわけが分からず、慌ててリビングに向かった。
「祥。君、どうして」
「おまえさ、酷くねえ? 電話、何回かけても無視だし、チャイム鳴らしても居留守だしさ。何なの?それ。なに怒ってんのさ」
祥悟はこちらの言葉を無視して、まくし立てている。智也は追いついていけずに、口を半分開いたまま、祥悟の膨れっ面をぼんやりと見つめていた。
「聞いてんのかよ? ……なあ、おまえ、まじで酔ってんの?」
祥悟は訝しげな顔になり、トコトコとこちらに近づいてきた。下から顔を覗き込んでくる。
「寝惚けてんのかよ?」
「え……っと、あの、いや。祥、君、どうしてここに?」
戸惑いながらようやく問いかけると、祥悟は途端に眉を寄せて
「おまえが、戻って来ねえからじゃん。待ってるって言っただろ?」
ともだちにシェアしよう!