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第89話 甘い試練10

悶々としているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしい。 狂ったように鳴る玄関チャイムの音で、智也はガバっと身を起こした。 直前に見ていた夢のせいで、心臓が嫌な感じにドキドキしている。 ーピンポーンピンポンピンポンピンポーン また鳴り出した。 慌ててシーツの上に転がっている携帯電話を拾い上げると、時刻は2:47。 ……誰だよ。こんな時間に。 智也は顔を顰め、渋々ベッドから降りた。 こんな真夜中にあんな鳴らし方をされたら、ご近所迷惑にも程がある。 玄関まで出て、ドアの覗き穴を見てみるが、誰も映っていない。 そのままドアを睨んで躊躇していると、今度はドアをガンガンと叩き出した。 ……ちょ、ちょっと、なんなんだよ。 チェーンは掛けたままで恐る恐る鍵を外し、ドアを薄く開けてみる。 「おい。居留守使ってんなっつーの」 細く開いたドアから、低い唸り声が飛び込んできて、智也は思わずびくっと飛び上がった。 ……え。この声って……祥? 慌てていったんドアを閉め、チェーンを外す。開けようとしたドアが急に開いて、智也はバランスを崩して前によろけ出た。 「うわっ」 祥悟が目を見開き、慌てて手を伸ばしてくる。がしっと抱きとめられていた。 「ちょっ、おまえ、なにやってんのさ。いきなり飛び出して、くんな」 両腕で受け止めてくれた祥悟が、焦ったような声をあげる。 「……っごめん」 「ばっか。酔ってんのかよ?」 こんな真夜中なのに、祥悟の声はまったく遠慮がない。 智也は体勢を立て直し、慌てて今度は祥悟の身体を引っ張って、中に入ってドアを閉めた。 「しー。声が、大きいよ」 「おまえが突っ込んできたんだし」 たしなめる智也をぎろっと睨みつけると、手を振りほどいて靴を脱ぐ。そのまま勝手知ったる様子で奥のリビングに入っていく祥悟を、智也は呆然と見送った。 「……え? あ、ちょっと、」 リビングのドアから、祥悟が顔を出す。 「なに突っ立ってんのさ。早く来いよな」 智也はわけが分からず、慌ててリビングに向かった。 「祥。君、どうして」 「おまえさ、酷くねえ? 電話、何回かけても無視だし、チャイム鳴らしても居留守だしさ。何なの?それ。なに怒ってんのさ」 祥悟はこちらの言葉を無視して、まくし立てている。智也は追いついていけずに、口を半分開いたまま、祥悟の膨れっ面をぼんやりと見つめていた。 「聞いてんのかよ? ……なあ、おまえ、まじで酔ってんの?」 祥悟は訝しげな顔になり、トコトコとこちらに近づいてきた。下から顔を覗き込んでくる。 「寝惚けてんのかよ?」 「え……っと、あの、いや。祥、君、どうしてここに?」 戸惑いながらようやく問いかけると、祥悟は途端に眉を寄せて 「おまえが、戻って来ねえからじゃん。待ってるって言っただろ?」

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