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第90話 甘い試練11
……たしかに……寝ないで待ってるって、電話で言っていた気がする……。
あの時は、もう心がいっぱいいっぱいで、祥悟の声を聴くのも苦しかった。
……でも、だからって、どうしてここに……。
いつも気紛れな祥悟のことだ。自分を呼び出したことも、そんな言葉も、すぐに忘れてしまうだろうと思っていた。
「え……っと。じゃあ、ホテルから、わざわざこっちに来てくれたの?」
「だからさ、誕生日じゃん」
「え……」
「もう日付変わっちゃったけどさ。誕生日だったし?」
「あ……ああ……そう、だよね」
すたすたとソファーに行き、ふんぞり返って座る祥悟を目で追いながら、智也はまだぼーっとする頭で考えた。
……そうだ。昨日は祥の……。でも……それもショックだったんだ。
知り合ってから4年も経つのに、祥悟の本当の誕生日すら教えてもらえていなかったことに。
自分の存在は、彼にとって所詮はたいした意味はないのだと……思い知らされた気がして。
「祥。誕生日……おめでとう」
智也がぼんやりと呟くと、祥悟はちろっとこちらを見て
「それよりさ。どうして戻って来なかったわけ? おまえ、何怒ってんの? アリサにキスされそうになったからかよ」
祥悟の目は冷ややかだ。
「……いや、そうじゃ、ないけど」
祥悟ははぁ……っと大袈裟なため息をつくと
「おまえって時々、そうやって閉じちまうのな。何考えてんのか、全然わかんねーし」
ぶつくさと独り言を呟く、その言葉の真意がわからない。何を考えているのかわからないのは祥悟の方だ。
「水無月さんに華奈さんとの時間を邪魔されて、追い払いたくて俺を呼んだんだよね?」
こちらの問いかけに、祥悟は無表情のまま何も答えない。
「俺は、彼女を送って行ったんだから、それでお役目御免だろう?」
愚痴っぽいことを言いたくはないのに、つい情けない言葉が零れ落ちた。
祥悟の眉間にシワが寄る。
「そんなこと、俺、おまえに頼んでねーし」
……うん。頼まれたわけじゃないよね。でも……あの状況で俺を呼び出すって、そういうことだよね。
「厄介事、押し付けたって。それでおまえ、怒ってんの?」
「別に、怒ってないよ」
「怒ってんじゃん。電話、無視してさ。おまえ、すげえ怒ってるじゃん」
「そうじゃないよ。祥。電話に出なかったのは悪かった。ごめんね」
なんだか泣きたくなってきた。
こんな真夜中に自分のマンションでまで、彼と言い争いなんかしたくない。
気持ちをコントロールする自信がなかったから、祥悟の顔を見ずに帰ったのに、どうしてわざわざやってきて、心を掻き乱すのだろう。
「謝れって言ってんじゃねーし」
……頼むよ、祥。これ以上は無理だから。
「文句あるならさ、言えばいいじゃん。おまえが言わなきゃ、わかんねえだろ」
「祥。怒ってないよ、本当だ。ただ、ちょっと疲れてるし眠いんだ。君だって明日は仕事だろう? もう、3時過ぎてる。話なら朝起きてからにしよう」
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