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第102話 揺らぐ水面に映る影1

祥悟がくれたマフラーをつけて、智也は仕事帰りに街中の店をうろうろしていた。 まさか自分と同じ日だとは夢にも思っていなかった祥悟の誕生日。もちろん、プレゼントなんか用意していなかった。 あの日は結局、朝まで眠れない時を祥悟の隣で過ごした。目が覚めると、祥悟は撮影の時間に遅れる、と慌ててマンションを飛び出して行ってしまった。 一大決心をした告白は叶わなかったが、祥悟からもらったのはマフラーだけじゃなかった。 満ち足りた幸せな時間を、彼は自分にくれたのだ。 ……遅くなってしまったけど、俺も何か彼に贈りたいな。 記念すべき祥悟の二十歳のBIRTHDAYだ。 大人の仲間入りした彼に、いったいどんなものを贈ったら喜んでくれるだろう。 心当たりの店を何軒か見て回り、ようやく見つけたのは……彼のほっそりとした手首に似合いそうなブレスレットタイプの時計だった。 多少値は張るが、高級すぎるという程でもない。智也もお気に入りの、スイスの老舗のオリジナル限定品だった。 プレゼント用に包んでもらって店を出ると、同じブランドの自分の腕時計で時間を確認する。 今日の祥悟のスケジュールは、マネージャーからそれとなく聞き出していた。 都内での撮影の後、社長に呼ばれて事務所にいったん戻るらしい。 出来ればお互いの休みが合う日に、ゆっくり食事でもしながら渡したかったが、あいにく今月いっぱいは休みが重ならない。 「急がないと」 智也は弾む心をなだめつつ、足どりを速めた。祥悟に会うのはあの日以来10日ぶりだ。 事務所に顔を出すと、祥悟はまだ社長室にいるらしいと知り、智也はほっと胸を撫で下ろした。時間潰しに廊下に出て、洗面所に向かう。 覗き込んだ鏡に映る自分の顔が、妙に浮かれた表情なのに気づいて苦笑した。 ……まったく……。はしゃぎ過ぎだよな、俺。 ふと、祥悟にもらったマフラーを巻いたままなのに気づいて、ちょっと気恥ずかしくなった。外しかけて、思いとどまる。 ……もらったマフラーをつけていたら、祥悟はどう思うかな……。 使う為に贈ってくれたものだ。身につけていたら喜んでくれるだろうか。いや、彼のことだからにやにやして、何か揶揄うような言葉を投げかけてくるかもしれない。 智也はしばらく悩んで、結局外すのは止めた。 すごく気に入って愛用しているのだと、祥悟に素直にお礼を言いたかった。 不意に、廊下の方が騒がしくなった。 誰かが何か叫んでいるような声が聞こえる。 「……?」 あの声は……祥悟だ。 社長室から出てきたのか。 智也は慌てて、洗面所のドアを開けた。

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