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第107話 揺らぐ水面に映る影6
智也は思わず身を乗り出し、祥悟の両肩に手を置いて揺すった。
「祥。いくら眠くても、最後まで抱いたかどうかくらいは、分かるよね?」
祥悟はなんとも微妙な顔になり
「ほんと、覚えてねえもん。たださ、多分、途中で寝ちまった……はず……かも」
智也は、くらりと目眩を起こしかけて、慌てて祥悟の肩から手を離した。
ダメだ。ちょっとショックが大き過ぎて……平静を保てそうにない。
先日、祥悟につきまとっていたアリサの、くっきりと整った意志の強そうな顔が浮かぶ。
あの娘の思い込みの激しさと祥悟に対する執着に、危険な印象を抱いてはいたのだ。
祥悟の話を聞く限りでは、本当に妊娠しているのかも分からない。でも、可能性はゼロではないのだ。そしてもしそれが本当なら、16歳の少女に手を出して妊娠させたというのは、この業界じゃなくても大変な事態だった。
智也はくるっと背を向けて、祥悟から1番遠い椅子に腰をおろした。足が震えて、ちょっと立っていられそうにない。
……マネージャーはいったい何をやっていたんだ? 祥の方だけじゃない、あの娘の方もだ。まだどちらも未成年だったのに。
いや……違う、そんなことどうでもいい。今更言っても仕方ないんだから。
ああ。ダメだ。どうしたらいいんだろう。
頭がぼーっとして……上手く考えられない。
祥悟が……結婚する。
もしかしたら父親になる?
そんな……そんなことって。
身体じゅうの力が一気に抜けて、鉛のように重たく感じた。椅子に座っているはずなのに、床にのめり込んでしまいそうだ。
「あいつさ、俺が裸であいつのベッドで寝てるとこ、写真撮ってやがった。信じらんねぇし」
「ええっ?」
祥悟の愚痴めいた呟きに、智也は思わず叫んで振り向いた。祥悟はびくっとして目を見張り
「ばっか。びっくりさせんなっつーの」
「写真っ? 君、それ見たの?!」
言いながらがばっと立ち上がった智也の剣幕に、祥悟はたじたじになり
「社長がさ、鬼の首取ったみたいな顔して、俺に叩きつけてきたし?」
「君が、寝てるところ? それともあの娘を抱いてる写真?」
「は? いや、俺が寝てるとこに決まってんじゃん。あいつ抱いてるとこなんか、誰が撮るんだよ?」
智也ははぁ~っと息を吐き出すと、再び力なく椅子にへたりこんだ。
証拠の写真まで撮られたと聞いて、美人局といった別の可能性が頭をよぎったのだ。
でも……きっとそうじゃない。
アリサは祥悟を本気で手に入れようとしているのだ。女の子の最大の武器を使って。
祥悟は……事態の深刻さが分かっているのだろうか。
というか、自分は今、どんな顔をしているんだろう。冷静に何かを考えているようで、実は頭の中は真っ白なのだ。
胸の奥がズキズキ痛む。
胃がムカムカして……吐きそうだ。
勝ち誇ったようなアリサの笑顔が浮かんできて、ムカつく。
そして、あまりにも無防備過ぎる祥悟の迂闊さに……ムカつく。
泣きたいのか怒りたいのか、もう何が何だかよく分からない。
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