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第114話 揺らぐ水面に映る影13
こちらに遠慮してもう帰るという峰さんを引き止めて、心づくしの夕飯を3人で和やかに食べた。
仕事柄どうしても外食が多くなる祥悟は、峰さんの作る優しい味の家庭料理がすっかり気に入った様子で、食卓を囲んでいる間中、幸せそうな穏やかな表情をしていた。
夕食を終えて峰さんが帰った後も、祥悟の機嫌はよさげだった。
食後の紅茶をいれて、リビングのソファーに移動してからも、峰さんから聞いた智也の子どもの頃の話を持ち出して、無邪気に当時の話をせがんでくる。
智也はそんな祥悟に合わせながら、社長からの話を切り出すきっかけをはかっていた。
やがて、はしゃぎ疲れたように祥悟が無口になったタイミングで、智也は覚悟を決めた。
「ねえ、祥。今日、撮影の後で事務所に寄ってきたんだけどね」
恐る恐る切り出すと、ソファーでクッションを抱きかかえてぼんやりしていた祥悟が、ひょいとこちらを見る。
「ふーん。そっか。だからこっち来んの遅くなったんだ?」
「うん。社長から言われたこと、君に伝えるよ」
祥悟は無言で頷いた。
智也は、明日往診で医者が来ること、今後の祥悟の動き方や今置かれている状況、アリサとの話し合いの機会についてなどを、淡々と祥悟に話していった。
「んじゃさ、当分はここにいろってこと?」
「そうだね。ここが嫌なら、どこか他の場所を見つけるよ。とりあえず、その怪我が治るまでは、公の場に出ない方がいいからね」
智也の話に大人しく耳を傾ける祥悟の表情は穏やかなままで、いつもの皮肉めいた反論もなかった。
「おまえが迷惑じゃねえならさ、俺はここでもいいけど?」
「そうか。もちろん迷惑じゃないよ。この家は祖父が俺に遺してくれたものだからね。好きに使ってもらって構わないんだ」
祥悟はクッションをぎゅっと抱き締めて、ぼんやりと部屋の中を見回し
「最初来た時はさ、広すぎるし静か過ぎるって思ったのな。でもさ、結構居心地いい」
祥悟の言葉に智也はほっとして
「気に入ってもらえてよかったよ。君がいる間は、峰さんにもここのこと頼んでおくから……」
「でもおまえは、帰っちまうんだよな? マンションに」
祥悟に遮られて智也は口を閉じ、そっと彼の表情をうかがった。
祥悟は窓の方を見ている。
「そう……だね。今夜は泊まっていくし、明日はオフだから夜までは一緒にいるよ。でも仕事に行くには……ここはちょっと不便だからね」
どこか言い訳じみている自分の言葉が嫌で、つい早口になる。
本当は通えない距離じゃないのだ。
多少、無理をすれば。
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