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第115話 揺らぐ水面に映る影14

「ひょっとしてさ。おまえ、俺のこと、軽蔑してんの?」 窓の外を見たまま、祥悟がぽつん……と呟いた。 「え……」 「アリサのこととかさ……俺のやってること、呆れてんだよな?」 智也は祥悟の横顔を食い入るように見つめた。でも彼の表情は感情をうかがわせない。 「祥。俺は別に」 「ま。当然だよな。おまえ、そういうとこ、真面目そうだし? 女に不誠実なことやってる噂なんてさ、聞いたことねーもん、智也の」 「それは……」 ……それはそうだろう。俺に女性関係の噂なんか、あるはずがない。だって俺は。 「おまえ、俺のこと、嫌いかよ?」 淡々と呟く祥悟の言葉に、ドキドキする。 ……嫌いなはず、ないじゃないか。俺は、君のことを。 祥悟がくるっとこちらを向いた。その瞳が真っ直ぐにこちらの心を射抜く。 「付き合いきれねえって思ってんなら、もう関わんなくていいし? 俺、おまえにいやいや世話焼いてもらう気ないからさ」 祥悟は相変わらずの無表情で、その声音も淡々としている。何を考えているのか、こちらにわからせようとしない。 「祥。待って。俺はそんなこと、1度も言ってないよね」 「おまえ……顔に出さねえし。何考えてんのか、たまに全然わかんなくなるよね」 ……それは、君の方こそ。 危うくそう言いかけて、ぐっと口を結んだ。 売り言葉に買い言葉で、言い争いなんかしたくない。 「祥。どうしてそんなこと言い出すの? 俺はいやいや君の世話なんか焼いてないよ。君のことが心配だから、余計なお世話だって分かってるけど、こうして」 ふいに祥悟の目が、一瞬歪んだ。 瞬きするぐらいの間だったが、とても哀しそうで苦しそうで、智也はハッとした。 「おまえに嫌われるのは、俺、嫌なんだ。軽蔑も同情もされたくねえの、おまえにだけは」 その声音もひどく寂しそうで、智也は泣きたくなった。 ……そんなこと、思うはずないじゃないか。君を嫌ったりなんか絶対にしない。 好きだから……好きだからこそ、こんなにも……辛いのに。 哀しげな目。寂しげな声。 思わず駆け寄って、抱き締めたくなる。 ……祥悟が自分にそんなことを、望んでいないのはわかっているのに。 「ばかだな。君を嫌いになったりしないよ、祥」 智也がそう言って微笑んでみせると、祥悟は探るような目でこちらを見て、何故か不機嫌そうに眉を顰めた。 「おまえってさ、すっげーお人好し。今回の件、あんま深く関わってるとさ、おまえまで社長の心象悪くなんじゃねーの?」 「それは、心配要らないよ。もともとあの社長からは、俺は良くも悪くも思われていないからね」 智也がそう言って首を竦めると、祥悟はますます不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「あのおっさん、人見る目ねえし。あーぁ。めんどくさいな。怪我治ったらまた、思いっきり説教されるんだぜ。里沙のことがなかったらさ、俺、あの事務所いつ辞めても全然いいのにな」 祥悟はそう言って唇を尖らせると、もうすっかり冷めてしまっただろう紅茶を、ひと口啜った。 ……里沙……。そうだ。 祥悟の言葉で思い出した。彼女からの電話のことを、まだ伝えていなかった。 「そうだ。祥。里沙から電話をもらったんだよ。君と直接連絡が取れないって、彼女、ものすごく心配していた」 祥悟はカップを置いて 「ふーん。なんて言ってた? あいつ」 「周りが口止めしてるみたいでね、詳しい事情は知らないようだったな。ただ、何か問題が起きたみたいだけど、事情を知らないか?って」 「そっか……。聞いてないんだ? あいつ」 「俺から話すのもどうかと思ったから、君から電話させるって言っておいたんだ。きっとすごく心配しているよ。電話してあげた方がいい」 祥悟は気乗り薄な顔になり、こちらを見て首を竦めた。 「携帯さ。社長んとこに置いてきちまったし。おまえが電話して説明してやってよ」 「それはダメだよ、祥。彼女、きっと納得しないだろう? 俺の携帯を貸してあげるから、直接、君が話した方がいい」

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